仕事になるかどうかは自分が決めることじゃない。いしかわゆきさんに聞く、キャリアを拓く“書く習慣”

仕事になるかどうかは自分が決めることじゃない。いしかわゆきさんに聞く、キャリアを拓く“書く習慣”

キャリア

インターネットの発達により「1億総発信時代」と言われるようになりました。SNSなどを使った発信活動は、インフルエンサーだけでなく、一般の人にとってもキャリアや人生を切り拓(ひら)くきっかけになり得ます。『書く習慣〜自分と人生が変わるいちばん大切な文章力〜』を出版した、ライター・コラムニストのいしかわゆきさんに、働きながら文章を書くことの意義を聞きました。

書くのは「サシ飲み」と同じ。モヤモヤを吐き出そう

――文章を書き始めたきっかけを教えてください。

私は中学2年生の時にブログで発信を始めました。

父の転勤でアメリカに引っ越したのですが、引っ込み思案で友達ができない上、車がないとどこにも行けない閉鎖的な空間に疲れてしまって。

「このままだと誰ともつながれないし、私が生きた証がどこにも残らない!」と中2のようなことを思って、ブログを始めました(笑)

取材に応じるいしかわゆきさん=写真はいずれも木戸みなみ撮影
取材に応じるいしかわゆきさん=写真はいずれも木戸みなみ撮影

その後、日本に戻って大学に進学し、生活が充実してきてからは、しばらく書くのをやめていたのですが、社会人2年目で再開しました。

当時は雑貨メーカーで働いていて、仕事は楽しい側面もある一方、自分の想(おも)いが反映されずにモヤモヤする気持ちもあったんです。

実務に私の想いや意見は関係がない。

当たり前ですが、仕事で100 %自己実現できるわけではないのだと悟りました。

 

そこで自分の意見や想いを吐き出す場所として、再びブログを始めました。

私が中学生の時もそうでしたが、人が“書きたい”と感じるのは、現状や自分にモヤモヤしている時なのかもしれませんね。

 

――心のモヤモヤを消化するために書いたんですね。

特に読者を想定せず、自分のためだけに、普段の何げないできごとや、自分が感じることを記録しておこうというライトな気持ちで書いていました。

 

私にとって、書くことは「サシ飲み」をする感覚なんです(笑)

みんなだいたい、悩みごとがあると友達を飲みに誘って相談するじゃないですか。

その相談相手が人なのか、パソコンや紙なのか、だけの違いかな(笑)

人に相談する時って、実はもう答えは決まっているものなんです。

でも、それが正しいと信じたくて、背中を押してほしいから誰かに打ち明けるんですよね。

答えは常に自分の中にある。

それを顕在化させるのが書くことなんです。

 

誰も呼ぶ必要がなく、飲み会を開く必要もありません。

コロナ禍で人と話しづらい中、自分の想いを書くことは最も手軽にモヤモヤを吐き出したり、自分自身を見つめ直したりできる行為だと思います。

 

――働きながら書き続けたブログは、いしかわさんのキャリアにどうつながりましたか?

それまで書くことを仕事につなげる気も、当時の仕事を辞める気も全くありませんでした。

でも、日々ブログを書くのが本当に楽しくて、「あぁ、私は書くことが好きなんだ」と気づいたんですよ。

そこで、書くことを仕事にすると決めて、「こんな記事を書いています」とブログをポートフォリオ代わりにして面接で見せたことで、未経験からライターのキャリアをスタートさせることができました。

 

私の場合は(投稿サイトの)noteで書いていたことが本の出版にもつながったので、純粋に書き続けたことでキャリアが拓けたと言えると思います。

読者さんの中には、自分の想いを書いたことで自分が本当にやりたいことに気づき、実際にアクションに移せた方や、新しい仕事につなげられた方もいます。

ライターになるかどうかは別にして、全人類に書くことをおすすめしたいですね。

働きながら書き続ける3つのメリット

――働きながら文章を書くことの魅力を教えてください。

仕事をしながら書くことを習慣化するメリットは3つあります。

 

1つ目は自分自身を見つめるきっかけになること。

著書『書く習慣』では30の執筆テーマを載せていて「書いて自分と対話することで、やりたいことが見えてきた」という読者の反響が多かったんですよ。

毎日やるべきことや仕事に忙殺されている中で、自分と向き合う時間を作るのは難しい。

意識的に自分と対話することで、仕事に追われながらも「本当にやりたいこと」をするために軌道修正ができるようになります。

 

2つ目は、自分の新たな一面を伝えられること。

「分人」という言葉があるように、会社での自分とは違う一面を、誰もが持っていると思いますが、それを自ら伝えることは難しいですよね。

踏み込んだ会話は仲良くならないとできませんし、リモートワークが多い今、雑談の機会も少ないと思います。

 

私が会社員だった時は、当時書いていたブログを他の社員が読んでくれたことで、間接的に自分の新たな一面を伝えることができて親しみを持ってもらえたり、得意なジャンルの仕事を任せてもらえたりすることがありました。

直接アピールする機会はなくても、どこかに書いておくことで新しい仕事につながるかもしれません。

3つ目は、同じ想いを持った仲間とつながれること。

書くことは、自分の想いを表明したり、価値観をさらしたりすることでもあります。

SNSでもブログでも、自分の価値観を発信することで、そこに共感する仲間が集まるようになります。

一方でうそをついたり、思ってもいないことを背伸びして発信したりすると、自分とは合わない仲間が集まってしまうんです。

 

自分と価値観が一致する人こそが真のフォロワー。

等身大で発信することで、心から応援してくれる仲間ができるんです。

働いていると、つい仕事仲間とばかり絡んでしまいますが、外部に知り合いができることで、社外での活動や新しいチャレンジにもつながっていくと思います。

人気クリエイターと一般人の差は「作品を公開したか否か」

――書くことをキャリアにつなげるには、何を意識したらいいですか?

そもそもなのですが、最初から「キャリアにつなげよう!」とリターンを求めすぎないことですね。

全てをお金と仕事につなげようとすると、自分が楽しくないと思うんですよ。

「50記事書いたら有名になれる」「書籍化の話が来る」と考えると、ただのタスクになってしまうし、何も起こらなかった時に失望してしまいます。

「自分のために楽しく書いていたら、結果的にキャリアが拓けた」というのが理想ですね。

 

その上で大切なのは、シンプルなことですが「とりあえず出す」こと。

みんなが憧れるクリエイターと私たちの差は、究極的には「出したか、出していないか」、それだけなんですよ。

 

例えば、ものすごく人気のYouTuberだからといって、センスのいい動画編集をしているとは限りません。

YouTuberは自分で動画を撮ってアップロードして、「出した側の人間」になったからこそ、クリエイターというポジションを取れたんです。

 

どんなにいい写真をたくさん撮っても、カメラロールに入れたままじゃ、自分しか見られない。

でも、カメラロールに入っている写真をインスタグラムなどに投稿することで、初めてクリエイターとしての一歩を踏み出せるんです。

 

だからまずは、世の中に出すこと。

出さないことには何も広がっていかないので。

もしも、公開するハードルを高く感じる人は、最初は誰にも見せず、書く練習をしてみるといいと思います。

私がずっと使っているのはiPhone純正のメモアプリですが、「muute(ミュート)」というアプリも使いやすくておすすめです。

自分しか見られない日記として使えるので、これで書くことを習慣化できた人も多そうです。

 

いま活躍しているイラストレーターも小説家も、最初は誰にも作品を見せていなかったはず。

自分のためだけにこっそりと書いているうちに、やがて「出してみたいな」という気持ちになるタイミングが来たと思うんです。

だから、誰かに見せようと意気込んで書くよりも、まずは自分のために書くことから始めてみるといいと思います。

 

――書く内容に関して気をつけることはありますか?

基本的には何を書いても自由ですが、「得意や好きを徹底的に洗い出して形にする」「過去の自分や身近な人に伝えたいことを考える」と書きやすいと思います。

 

最近、お金に関することを書いたんですよ。

お金について勉強しているわけじゃないけど、ただポロッと「こんなふうに貯金や節約をしています」と発信してみたら、「お金についてぜひ講演して下さい」とお話が来たんです。

何が仕事につながるかは、本当に分かりません。

 

だからこそ、普段自分がやっていることや好きなこと、得意なことなどを洗い出して形にすることが大事です。

それが仕事につながるかどうかは、あなたではなく、仕事を依頼する側が決めること。

私が『書く習慣』を出版できたのも、自分のためにnoteにマガジン(記事のまとめ)を残していたおかげだったんですよ。

 

――『書く習慣』を出版した経緯について詳しく教えてください。

ライターという職業柄、「文章ってどうやったらうまくなるんですか?」「どうすればライターになれますか?」といった質問をいただくことが多いのですが、一つ一つに答えるのが面倒だったんです。

それからコロナ禍で緊急事態宣言が発令され、暇になったことで「“書く”が好きになる文章マガジン」を始めました。

その後は、ライター界隈でも徐々にオンライン取材が定番化して仕事も入るようになったので、マガジンの更新をストップしていました。

 

それが、半年後に編集者の方から「書くことが好きになる本を作りたい」と突然連絡が来たんです。

どうも編集者さんが「書く 好きになる方法」で検索したところ、私のマガジンがトップに出てきたので、声をかけてくれたそうです。

――出版が決まった時、どう思いましたか?

純粋にめちゃくちゃ夢があるなと思いました。

本を読んでいただければ分かると思うのですが、私はそんなに文章がうまいわけでも、人気ライターでもないんですよ。

語彙(ごい)力も高くないし、中学生でも書けるような文章しか書けません。

 

出版が決まった時点でのライターとしてのキャリアは2年ほどで、ツイッターのフォロワーも当時は5000人程度、インフルエンサーと呼ぶにはほど遠い存在でした。

それでも、自分と比べるのもおこがましいほど実績や影響力のあるライターさんがいる中で、私に声がかかったことで、「どんなに拙(つたな)くても、書いてさえいれば一般人でも本を出せるんだ!」と確信を得られました。

形に残して公開していたからこそ、検索に引っかかって人の目に留まり、キャリアにつながった。

改めて、形にすることの大切さを感じましたね。

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