まず疑うことから始めよう。FIRE達成の極意とは【後編】

まず疑うことから始めよう。FIRE達成の極意とは【後編】

ライフ・マネー

三菱系の大手企業に勤めながら徹底した倹約と資産運用を続け、30歳でFIRE(Financial Independence, Retire Early=経済的自立と早期退職)を実現した穂高唯希さん。FIREという生き方の魅力やFIREがいま注目される理由、FIREと従来の早期退職の違い、FIREの目指し方などについて、実体験を元にお伝えします。

こんにちは、穂高 唯希です。

前回は「私たちがどのような時代に生きているのか。特に、テクノロジーが飛躍的に進化した側面に焦点を当て、その実情と影響、人を受け身にさせてしまう具体例」などについてお伝えしました。

今回はその続きとして、「そのような時代において普遍的に大切なこと、俯瞰的な視点を備え、変化に対応するためにはどうすればよいか」について考えてみます。

変化への対応に不可欠な「知のアップデート」

では、俯瞰的な視点を備えるにはどうすればいいでしょうか。

物事を認識するときに「なぜ?」と自分で問いかけ、「そもそもこれってなんだっけ?」と立ち止まり、地道に深堀りしていくことが大切ではないでしょうか。

 

政治であれば、そもそも日本はどのような理念に基づいた政治制度で、どういった形式で成り立ち、どのような歴史をたどってきたのか。

経済であれば、どのような変数が存在し、過去にはどのような事象が起き、どういった対策がとられ、その後どのような推移をたどったのか。

投資であれば、どのような投資対象が存在し、どのような因数の影響を受け、他の対象との相関性や、過去どのような局面でどのように推移してきたかのか、など。

 

面倒だと感じるでしょうか。

とかく効率性がもてはやされ、スピードが声高に叫ばれる現代では、面倒に感じる人が増えたのかもしれません。

 

「即座に手に入るごほうびに慣れた人間には、時間をかけて習得することを嫌う傾向が出てくる」と前回記しました。

現代は簡単に答えが手に入るので、地道で遠大な作業を敬遠する人が増えたのではないでしょうか。

 

しかし、簡単に手に入ることは差別化できませんし、陳腐化しやすいです。

面倒と感じる分野ではなく、多くの人が面倒と感じるけれども自分は面倒と感じない分野、つまり興味のある分野で深堀りしてみてはいかがでしょうか。

現代では特に重要なことだと言えます。

Getty Images
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1つの事象を深堀りすれば、たいてい根底に存在する本質があります。

根底に存在することは、他のジャンルに応用できることも多々あります。

俯瞰的な視点を養うには非常に適した方法だと私は思います。

一見、分野が違うことでも通底するものはあるので、深堀りに要した時間は決して無駄にはなりません。

 

時代は常に流動的で、刻一刻と状況は変わっていきます。

昨日まで最適解とされてきたことが、明日には陳腐化している可能性もあります。

時代の変化が急激ないま、そのサイクルはますます短期化していくことが予想されます。

そういった状況で自分が変化し、対応するためには、絶えず客観的かつ俯瞰的な視点を備えておくことが必要だと思います。

 

投資も同様です。

近年、米国株投資が人気化し、日本でもブームの様相を呈しています。

過去、右肩上がりの成長を続けてきた市場であり、長期で見れば必ず勝ててきたという心理的な支えや喧伝も、人気化した理由の1つでしょう。

米ニューヨークのナスダック市場。近年の米国株相場を引っ張ったハイテク株が多数上場している=2020年、朝日新聞社
米ニューヨークのナスダック市場。近年の米国株相場を引っ張ったハイテク株が多数上場している=2020年、朝日新聞社

しかしブームというものも、常に流動的で変わっていくものです。

過去のパフォーマンスは未来を規定してはくれません。

投資の最適解も時代や状況によって移り変わっていきます。

 

だからこそ2021年からは米国株投資を盲信しないよう、同時に言い続けてきました。

ゴールド(金)、新興国株式、債券、不動産など、資産には様々な対象があり、時代の寵児(ちょうじ)はいずれ変わっていくものです。

 

単一の対象を盲信していては、変化に対応しづらくなります。

変化に対応するためには、日々勉強を重ね、先史時代より人間が生き抜くために必要としてきた「知の獲得」というアップデートを、常に脳にほどこし続けることが方策になると思います。

君子便利なものに近寄らず、過信はやめよう

そして便利なツールを過信しないことです。

インターネットは使い方に気をつけないと、深い思索を拡張してくれるとは限りません。

脳が求めるままに、次々に真新しい情報と刺激を探し、スマホ画面をスワイプするだけの機械になってはいけないのです。

簡単に得られた情報を、全く疑わずに、自分の頭で考えたり反芻(はんすう)したり、検証したりせずに、鵜呑みにする人を近年非常に多く目にし、私は危惧しています。

ネットにあふれる情報は本来、大元までたどって真偽を確かめるくらいの作業が必要です。

ウィンドウズ95日本語版の発売に詰めかけた人々。インターネットが個人に普及する大きな節目になった=1995年、東京・秋葉原、朝日新聞社
ウィンドウズ95日本語版の発売に詰めかけた人々。インターネットが個人に普及する大きな節目になった=1995年、東京・秋葉原、朝日新聞社

カーナビも間違えることがあります。

上に高速道路、下に国道がある場合、カーナビもどちらに車があるのか判別を誤ることがあります。

テクノロジーが絶対に正しい保証はどこにもありません。

地図を眺めて自分で考えないと、テクノロジーがツールではなくなり、人間がテクノロジーに使われることになります。

 

教育も関係しているでしょう。

教育が、「考える」という過程より「答え」だけを求めることに重きを置いてきた、そしてそれが常態化しているからこそ起きる現象ではないでしょうか。

自分でたどりついた答えではなく、他者や機械が提示した「答え」に瞬間的に反応し、疑わず、検証せず、行動する――。

スピード重視の社会、そして過程よりも「正解」を単眼的に求める教育が、人々をそうさせているのかもしれません。

Getty Images
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人生が終わらない以上は、FIREする前も後も関係なく、勉強し続け、そして俯瞰的な視点を持ち続けることこそが、健全な社会を維持する上で重要な、個人としての役割や社会的責務を果たすことにつながると思います(第3回で述べたように、社会の構成員である以上は、FIREしようがしまいが社会的な責務を果たす使命があると考えています)。

人間本来の知的欲求を満たすことにもなるでしょう。

実利をもたらすことにもなるでしょう。

そして、人類が生き抜く力の根源ともなってきた「変化への対応」にも寄与することになるでしょう。

 

便利なものには、必ず副作用があります。

エスカレーターやエレベーターは便利ですが、半面、階段を使わなくなることで人間の運動機会を自ら奪うことにもなるのです。

テクノロジーが進化したからこそ、「階段は資源(拙著「本気でFIREをめざす人のための資産形成入門」より)」になったのです。

 

ツールや情報にあふれた現代、人間が使われるのではなく、自分で主体的に考えて、主体的に適度に活用する姿勢こそ、FIREにかかわらず現代を生き抜くために、ますます重要になってくるのではないでしょうか。

 

人間は、心配を探しては、同時に安心できる材料も探す生き物だと思います。

信頼する人や媒体を通して安心したい気持ちも分かります。

しかし、どのような状況でも本質的に重要なのは、何かを盲信することではなく自分で主体的に考えることです。

私のブログ書籍、または本コラムを通して、少しでも何かを主体的に考えるきっかけとなれば幸いに思います。

 

(このコラムは今回で終わります)