三菱系の大手企業に勤めながら徹底した倹約と資産運用を続け、30歳でFIRE(Financial Independence, Retire Early=経済的自立と早期退職)を実現した穂高唯希さん。FIREという生き方の魅力やFIREがいま注目される理由、FIREと従来の早期退職の違い、FIREの目指し方などについて、実体験を元にお伝えします。
こんにちは、穂高 唯希です。
前回のコラムで、FIRE達成者に傾向的に共通する特徴として「自分で考え、自分で責任を持ち、自分で道を切り開く。つまり、自分で主体的に物事を考えられる」ことを挙げました。
では受動的ではなく能動的に、そして主体的に物事を洞察する習慣をつけるためには、どのようなことがポイントになるでしょうか。
2回にわたって考察したいと思います。
テクノロジーの進化で身近になった「答え」
「自分の頭で考える日本人が、以前と比べて大きく減ったのではないか」と思ったことを前回記しました。
様々な原因が考えられます。
家庭内外における教育の変質、危機感の欠如、国防という国家的中枢機能を他国に依存する構造的受動性、豊かさゆえのハングリー精神の欠如など。
教育については前回触れた通りです。
ハングリーさの欠如は国家の成長サイクル末期では致し方ない面もあるのでしょう。
歴史をひもとけば、開拓者や成功者の2代目はどうしても、1代目ほどのハングリーさを持ちづらい傾向にあります。
お金に不自由なく育った子どもはそうでない子どもより、お金への意識が希薄化しやすい傾向を見いだせます。
マクロ的に見ても「物質的に窮乏した時代と物質的に満ち足りた時代、どちらの人々にハングリーさが芽生えやすいか」といえば、前者であろうことは想像に難くないと思います。
これらとは別に、見逃せない大きな時代的変化が1つ、要因として考えられます。
それは「テクノロジーの急激な進化」です。
インターネット、カーナビ、スマホなど多種多様なハイテク機器があふれているのが現代です。
それも数千年かけて徐々に登場したものではなく、この数十年の間に登場しました。
人類の歴史を考えれば、ほんの一瞬の間にテクノロジーによって生活様式が急激に変化したことになります。
まずこの事実を認識しておきたいところです。
ではこの急激なテクノロジーの進化によってどのような変化が起きたでしょうか。
それは「あまり考えなくとも答えが用意されている」という状況が私たちの周りに増えたのではないでしょうか。
大きな図書館で書物をつぶさに調べずとも、インターネットの検索サイトで知りたいことを入力すれば、ただちに詳細な情報が大量に表示されます。
道路地図とにらめっこせずとも、カーナビに目的地を入力するだけで瞬時に経路・所要時間が表示されます。
そして、どこかに移動せずとも、傍らにあるスマホを手に取れば、これら2つをいつでも遂行できるのです。
スマホは、コンタクトレンズの使用期間が2週間になれば知らせてくれますし、気になるジャンルのニュースを自動でお知らせしてくれます。
あなたの使ったお金の額を知らせてくれる機能もあります。
人を受け身にさせてしまうサービスや機器たち
時代を少しだけさかのぼれば、流れる情報をただ浴びるだけで時を過ごせる「テレビ」が登場したあたりから、人間にとって“心地よく”受動的になれる環境が徐々に醸成されてきたと言えるでしょう。
現代はその極致です。
検索すれば即座に「答え」を手に入れることができます。
それゆえ、即座に手に入るごほうびに慣れた人間には、時間をかけて習得することを嫌う傾向が出てくるのではないでしょうか。
あの手この手を使って、人間が考えるより先に何かを得られ、そして受動的にさせるサービスや機器がそろっているのです。
背景には資本主義があるでしょう。
SNSはその最たる例です。
SNSの運営企業は、できるだけ人々を長い時間、そのプラットフォームに滞在させることに心血を注いでいます。
なぜなら、人々の滞在時間が長くなるほど、掲載される広告の価値は高まり、人々の行動情報が集積され、データとしての価値を持つからです。
人々の視線をどれだけ画面に釘付けにできるかが、SNSなどの運営企業の収益や価値に直結するのです。
そのため、人間の脳メカニズムに基づいて、人々の欲求を刺激し、ドーパミン分泌を促し、人々が無意識的に「また画面を見たい」「スマホに手を伸ばしたい」「アプリを開きたい」と思うよう、綿密に設計されています。
第3回コラムで「私たちがどのような時代に生きているのか理解を深めましょう」という趣旨の内容を記しました。
それは、今回の内容にも通底しています。
自分が理想とする人生を実現するためには、道中に様々な障壁があるでしょう。
その障壁の1つが、社会システムであることも、時にあるでしょう。
現代はいわば、SNSに代表されるように「いかに人々の需要や欲求を喚起し、時間を奪い、そうすることで企業の収益を伸ばすか」に心血を注ぐ第三者が確実に存在する時代です。
そのような時代に「経済的な自由を得て、主体的な人生や自身が望む人生を獲得(=FIRE)する」ためには、自分がどのような時代に生きていて、資本主義・商業主義とはどのような側面があってどのような力学が働き、人々がどういう状態であることを望む人が存在する社会システムなのか、といった俯瞰的な視点が必要ではないでしょうか。
なぜなら、そういった視点が欠如していれば、広告や情報に踊らされて時間を費やしているうちに、目標が遠のく可能性が高まるからです。
現代はテクノロジーが発達した分、そのテクノロジーを活用して、あの手この手で人々の消費を喚起する社会です。
資本主義に質的な転換が生じるか、地球環境が悲鳴を上げない限り、その傾向は続くでしょう。
消費の裏には資源の消費があります。
資源は無尽蔵にあるものではないですよね。
では、俯瞰的な視点を備えるにはどうすればいいでしょうか。
次回、考察してみたいと思います。
(このコラムは月1回掲載予定です)