このコラムでは、リモートワークが若手のみなさんにもたらす影響を紹介したうえで、会社やみなさんのマネジャー(チームを管理したり、まとめたりする立場の人)が何を考えているのかについても取り上げていきます。
リモートワークがもたらした変化を立体的に理解することで、リモート時代のよりよい仕事の進め方やキャリアの築き方のヒントにしていただければうれしいです。
コロナ禍によって急速に広まったリモートワーク。新しい働き方に「まだ慣れない」「チームをうまくまとめられない」など課題を感じている方も少なくないのではないでしょうか。リモートワークなど多様な働き方について詳しい、リクルートマネジメントソリューションズの武藤久美子さんがリモート時代の仕事の進め方や考え方、そしてキャリアについて解説します。
今回から、リモートワークにおける「マネジャーの悩み」とその対応策について紹介します。
現在マネジャーをしている方々には直接ヒントになると思いますが、現在マネジャーではない方々にとっても、マネジャーがどのようなことを考えているかや、マネジャーから見た世界がどのようなものかを知ることは役立つでしょう。
マネジャーはリモートワーク下での情報収集についてどんな悩みを持っているのでしょうか?
リモートでは「偶然」「ついで」が使えない!
リモートワーク下において、マネジャーからしばしば「一緒に働いているメンバーのことが見えづらくなった」「わかりづらくなった」という声を聞きます。
メンバー側からすると、「以前は本当に見えていたのか?」「マネジャーはメンバーである私の状況をきちんと知っていたのか」という疑問はあるかもしれません。
しかし、このように感じているマネジャーが多いのは確かです。
これまでマネジャーが出社・対面中心で働いていた頃にメンバーについて情報収集するのによく用いていた機会は以下のようなものがありました。
・食堂や喫煙室などでメンバーと話をする
・メンバーが一緒に仕事をしている人に、フロアでばったり会ったときにメンバーの様子を聞いてみる
・メンバーのお客様先に同行する際、道すがらメンバーの繁忙状況について尋ねる
・取引先などから電話がかかってきた様子のメンバーが、スマートフォンで話しながら、遠くへ歩いて行ってしまったので、「お客様との間で何か困ったことが起きているかもしれないから、後ほど声をかけてみよう」と考える
こうした情報収集の機会に共通していることはなんでしょうか。
それは、「偶然の機会や、ついでの機会を使っている」ことです。
マネジャーは偶然やついでの機会を使って、必要な情報を収集したり、自分のセンサーにひっかかる気になりごとについて確認したりしていました。
こうして得られた情報によって、こまめにメンバーの業務の軌道修正をしていたのです。
これは、いわゆる「できるマネジャー」の多くが行っていたことです。私はこれを「マネジャーの得意技」と呼んでいます。
しかし、リモートワークでマネジャーとメンバーが離れて働くことが増えた昨今、この得意技を使える機会が減りました。まさに「得意技封印」です。
リモートワークの進展によって、あるマネジャーは、偶然やついでの機会の減少を穴埋めするために、こと細かにメンバーを見に行くようになりました。
このようなマネジャーは、これまで以上に時間を割いてメンバーの情報収集をするようになり、負荷が増しています。
メンバー側も、突然マネジャーがこと細かに情報収集するようになったので、マイクロマネジメントや監視をされているように感じることがあります。
一方で、「偶然とついでの機会が減って、メンバーのことがわからなくなるのは仕方ないことだ」と、半ばあきらめて放任するマネジャーも出てきました。
メンバーについての情報収集という観点でいうと、リモートワークはマネジャーの行動を二極化させやすいのです。
「得意技」が封印されたマネジャーがすべきこと
このようにマネジャーの行動が「マイクロマネジメント」または「放任」と二極化になりがちな状況下で、マネジャーは何をすると良いでしょうか。
それは、「偶然やついでの機会を使った情報収集を、意識的なものに変えること」です。
どういうことか。
「意識的な情報収集」の代表例は、定期でメンバーと会話する機会をつくることです。
リモートワークが働き方の1つとなる中で、1on1ミーティングをする会社が多くなっているのもうなずけます。
また、私がマネジャーにおすすめしていることの1つは、「メンバーのよろず相談を受ける時間を、カレンダー上に明示しておくこと」です。
マネジャーから見て「メンバーが見えづらい」「わかりづらい状況にある」ということをご紹介しましたが、これはメンバーにとっても同じです。
メンバーも出社中心のときは、マネジャーの様子を見て、話しかけるタイミングを見極めていました。
しかし、リモートワークになって、マネジャーに「いつでも相談してね」と言われたことを額面通り受け取って、オンラインで気軽にマネジャーに声をかけたら、塩対応をされたメンバーも多いようです。
結果として、そのような経験をしたメンバーはマネジャーに話しかけることを躊躇するようになっています。
そこで、マネジャーがカレンダー上に「ここは大丈夫」と明示しておくことがメンバーの安心につながるのです。
特に、「いつでも相談に来てね」とメンバーに発信しているにもかかわらず、メンバーからの相談がないというマネジャーにはお勧めしています。
意識的な情報収集の例
▷メンバーからのよろず相談を受ける時間をカレンダーに明示(本文で紹介している例)
▷メンバーのカレンダーを見て、繁忙の状況やケアの必要なシグナルがないかを確認する(特定の仕事のミーティングばかりが設定されている、夜に謎の社内打ち合わせが多いなど)
▷メンバーの進行中の仕事や、プライベート含めて、メンバーがシェアしたいことを書き込める掲示板を設ける
▷メンバーから得たい情報について、自分が率先して発信する
メンバーはマネジャーに対して何をすべきか
前述のようにマネジャー側ができることはもちろんあります。
とはいえ、リモートワーク下では、マネジャーが適切なタイミングでメンバーに声をかけることは難しいです。
また、リモハラ(リモートハラスメント)と呼ばれることを恐れて、マネジャーも在宅勤務するメンバーにどこまで声をかけていいのか迷うケースもあります。
単に見えづらい、わかりづらいというだけでなく、ワークインライフによってさらに適切な情報収集の線引きが難しくなっている面もあります。
このような環境下では、きちんと報告するメンバーがマネジャーの信頼を集めます。
「きちんと報告する」の「きちんと」の頻度や内容は、メンバーの自律度によって異なります。
しかし、メンバーの自律度を問わず、以下のようにマネジャーに思ってもらえるようになると良いでしょう。
「このメンバーは、お客様や一緒に仕事をする人との間で大きな問題が発生したり、関係が悪化したりする前に報告・相談してくれる」
「このメンバーは、働き過ぎて心身の不調をきたす前に、つらいということを知らせてくれる」
「このメンバーは、こと細かに見守っていなくても、期待される役割を果たしてくれる」
今回は、「マネジャーの情報収集」をテーマに、マネジャーの悩みとマネジャーにお伝えしている対応策を少しご紹介しました。
そのうえで、マネジャーの置かれた状況を踏まえたときにマネジャーではないメンバーの方たちができることについても取り上げました。
現場の一員として活躍するうえでも、今後マネジャーになったときに活躍できるかという観点でも、参考になれば幸いです。
(このコラムは月1回掲載予定です)