ごみがごみでなくなる日。「捨てない世界」の実現を目指して(未来のあたりまえをつくる。①)

ごみがごみでなくなる日。「捨てない世界」の実現を目指して(未来のあたりまえをつくる。①)

ビジネス

プラスチック製の使い捨て食器の削減やリサイクルを促す「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が2021年6月に成立しました。海洋汚染問題やSDGsへの意識が高まり、資源の循環、特にプラスチックのリサイクルへの関心も広がっています。循環型社会に向け、プラスチックはどこまでリサイクルでき、私たちにはどんな意識が必要なのでしょうか。元ラグビー日本代表キャプテンで実業家の廣瀬俊朗さんと、大日本印刷(DNP)でパッケージ事業を担当する柴田あゆみさんがリサイクルと資源の未来について語り合いました。

――プラスチックのリサイクルについて、廣瀬さんはふだんの生活でどのように感じていますか?

廣瀬 みなさんの意識がかなり変わってきたと思います。どのスーパーに行ってもマイバッグを持っている方を見かけますし、飲食店でも紙ストローや紙コップに切り替えたところが増えています。

廣瀬俊朗さん
廣瀬俊朗さん

僕も出張に行った時に、着た後の服をポリ袋に入れて帰りがちでしたが、洗えるバッグを持っていくようになりました。リサイクルの意識の高まりを感じる中で、僕もふだん使っているものがどういう素材でできているのか考えるようになったと思います。そして、自分ができることから少しずつやっていくことが大切だと思うようになりました。

 

“ごみ”を分別しなければならない理由を考える

――ペットボトルのキャップやラベルを外してリサイクルすることは一般的になりつつありますが、こうしたリサイクルの手法は、どのような経緯で定着したのでしょうか?

柴田あゆみさん
柴田あゆみさん

柴田 日本でペットボトルが流通しはじめたのは1980年ごろのことです。普及が進む一方で、ごみが増えることも早い段階から危惧されていました。1990年代初頭からリサイクルの取り組みが始まり、そこから「ボトルtoボトル」のリサイクルが実現したのは2000年代に入ってから。衛生面の課題なども解決しながら、近年実用化が加速しています。

ここに至るまでにはリサイクル技術の確立だけでなく、事業者や、ごみの収集を担う自治体等の努力と工夫、法律の整備など、あらゆる取り組みがありました。

こうした取り組みを進めてきた結果、生活者がちゃんと分別して捨てるという行動があたりまえのことになったのだと思います。

 

廣瀬 僕がペットボトルのリサイクルを意識しはじめたのは、ラグビーの日本代表に選ばれた2007年ごろのことだったと思います。

ドーピングなどの問題で、しっかり包装された新しい容器に入ったものを飲むことが非常に大事になり、ペットボトル飲料を飲む機会が増えました。そこで、ラベルをちゃんとはがして分別しようと考えるようになりました。

 

柴田 キャップもラベルも、PET(ポリエチレンテレフタレート)素材ではないプラスチックでできているので、分別しなければいけません。リサイクルできるようにするためには、ボトルがPETという単一素材であることが、非常に重要なポイントになります。

 

廣瀬 “言われているからはがす”という感覚の人もいるかもしれませんが、僕はDNPの取り組みや、産業廃棄物の工場を見学した経験から、ペットボトルのラベルをはがさないとリサイクルの工程が増えて大変なことになってしまうということを理解しました。ペットボトルの中身も、ちゃんと洗ってから出すことを意識するようにしています。

プラスチックごみのリサイクルの現場について取り上げた2019年8月の朝日新聞の記事
プラスチックごみのリサイクルの現場について取り上げた2019年8月の朝日新聞の記事

――朝日新聞の2019年8月の記事では、プラスチックごみのリサイクルの現場について取り上げています。記事では、リサイクルの現場で分別が不十分なために、資源の再利用が難しくなっている現状を紹介しました。記事は2年あまり前の状況を説明していますが、最近はプラスチック製のパッケージのリサイクルはどのようになっているのでしょうか。

 

柴田 世の中にあるプラスチック製のパッケージで、単一素材でできているものは、実はそんなに多くありません。実際には、そのパッケージに求められる機能に応じて、プラスチックの素材ごとに持つ機能を組み合わせることで、一つの製品として成り立っています。2種類のプラスチックが組み合わされている場合もあれば、3~4種類のものも多くあります。

たとえば、洗剤やシャンプーの詰め替えパッケージは、外からの衝撃に強い「ナイロンフィルム」と、貼り合わせがしやすい特性を持つ「ポリエチレンフィルム」が主に使われています。

食品であれば、中身や、常温か冷蔵かなどの流通の条件を考えた上で、必要な機能に合わせたパッケージを設計します。レトルト食品のパッケージだと、酸素や水蒸気を通さないバリア性を持つアルミ箔(はく)が使われていることが多いです。

 

廣瀬 何パターンのパッケージがあるのか、すごく興味があります(笑)。飲み物の紙パックも、中がアルミ箔(はく)で覆われているものもあって、鮮度が保たれているわけですね。こういうことも、原材料を意識してパッケージを開けるようになって、はじめて分かるのだと思います。

 

柴田 紙の容器は、清涼飲料水やアルコール飲料、しょうゆやめんつゆの調味料などで使われますが、紙に見えて、中にポリエチレンがコーティングされているんです。これにより、保存性が高まっています。最近では、アルミの代わりにバリア性のある透明なフィルムを使用して、よりリサイクルしやすい工夫をしているものも増えています。

DNPでも、容器に使うすべての素材はリサイクルできるようにしたいという考えで取り組んできました。

ここ2年あまりの間でも、だいぶ進んできたとは思いますが、まだ道半ばで、完全とは言えないのが現実です。DNPとしては、いまはまだ残る“ごみ”が次の世代では“ごみ”でなくなる「完全循環」の実現を目指していきたいと考えています。

 

単一素材のパッケージ開発によるリサイクル推進

廣瀬 そうした完全循環を実現するためには、僕たち消費者もそういう工夫があることを意識して、国や企業と一体になって取り組んでいくことがやはり大事ですね。

 

柴田 はい。世の中のプラスチック製品の完全循環は、すべてのステークホルダー(利害関係者)が一体になって進めていかないと実現できません。

その中で、パッケージを提供するDNPとしては、まずはリサイクルしやすい素材の開発を目指していきます。

DNPが目指すパッケージの資源循環のイメージ図
DNPが目指すパッケージの資源循環のイメージ図

そこでDNPでは、「GREEN PACKAGING」という環境に配慮した製品やサービスの開発を進めています。その中で、リサイクルしやすい素材開発として代表的なものが「モノマテリアル包材」です。リサイクルしやすい単一素材でありながら、複数の素材が持っている機能を発揮できるような加工を施しています。

 

廣瀬 一見すると違いがわからないです。どんな加工をしているのか、とても気になります。

 

柴田 たとえば、バリア性のある物質を吹き付けたり薄く塗ったりして、中身を保存できるようにしています。いくつもの素材で発揮してきた機能を単一素材だけで実現するのはハードルが高いのですが、こうした技術はDNPの得意分野です。

リサイクルしやすい単一素材ながら、中身をしっかり保存できる機能を独自技術で実現したのがモノマテリアル包材です。ほかにも、いろんな難しい加工技術を駆使しながら、モノマテリアル包材を年々進歩させています(※)。

DNPのモノマテリアル包材でつくったパッケージ
DNPのモノマテリアル包材でつくったパッケージ

廣瀬 ラグビーの世界と同じですね。スキルだけでなく、フィジカルや、心理面にもアプローチしていく。あらゆる面で改善していくことが進化につながるのだと思います。

 

リサイクルしやすく、単一素材からできたDNPのモノマテリアル包材について

(※)DNPはモノマテリアル包材でつくったユニリーバの紅茶ブランド「リプトン」シリーズ(2021年10月1日よりエカテラ・ジャパンに事業移管)のパッケージで 2020日本パッケージングコンテスト「経済産業省産業技術環境局長賞」を受賞

 

再生プラスチックの価値を高めるには

――パッケージを開発する以上に難しそうなのが、再生プラスチックの価値を向上させつつ社会的評価を得ていくことだと思います。DNPではどんな取り組みをしているのですか?

柴田 DNPは2020年に「Recycling Meets Design」というプロジェクトを立ち上げました。プロジェクトメンバーの発想力やデザインの力によって、これまで使い道が少ないと考えられてきた再生材を、何にどう使えば用途を広げていけるか、どう製品に生まれ変わらせることができるか、どのように価値を高めていけるか、とことん考え抜いていこうという取り組みです。

さまざまな社会課題を解決しようという視点を持ちながら進めており、実は廣瀬さんにも、2021年に始まった本プロジェクトの第2期に参加いただいています。

 

廣瀬 僕らは、スポーツが体現しているフェアプレー精神で、社会や地域の課題を解決しようと「TEAM FAIR PLAY」という活動をしています。プラスチックの問題でも、フェアプレーの考え方を取り入れられないかと考えていて、たとえばスタジアムでの観戦グッズにも再生プラスチック製のものを使えないかなど、いろいろ模索しています。

 

柴田 このプロジェクトの観戦グッズの案は、廣瀬さんのご経験とも親和性があって面白いですね。第1期では、「MaiLoop(メイループ)」という、配送用パッケージのアイデアが出ました。

メイループは、配送に何度でも使ってもらうことを目指してデザインした再生プラスチックの製品です。コロナ禍で宅配便のニーズが増えましたが、荷物は紙袋や段ボールといったもので包装されていて、基本的には1回使い切りだと思います。

そこで大量に消費されていく需要が見込めるこの用途に、再生プラスチックを活用できないかと考えました。配送用のパッケージが再生プラスチックでできていて、さらにリユースで何度でも使えます。将来的には物流や流通で生かしてもらいたいと思っています。まずはDNPグループの社内便で使ってみようと、フィージビリティスタディ(実現可能性の事前調査)を始めたところです。

DNPが開発した、何回でも使える配送用パッケージの「MaiLoop(メイループ)」
DNPが開発した、何回でも使える配送用パッケージの「MaiLoop(メイループ)」

廣瀬 僕も会社員のころ、社内便を頻繁に使っていました。セロハンテープを貼って何回も使っているとだんだん汚くなります。そのまま送るのが申し訳ないと思った時は、新しい封筒に替えていました。だから、メイループはすごくいいアイデアだなと思います。

 

“ごみ”という言葉がなくなる日に向けて

――生活者が自ら商品を手に取った時に、これはリサイクルできるのか、それともごみになるだけなのかということを今後はさらに意識していく必要がありそうですね。

 

柴田 環境に配慮した素材でパッケージをつくって、ラベルで表示していたとしても、生活者の方に理解していただくのはなかなか難しいと思います。パッケージの表示を見て商品を選んでいる人は多くないと思いますので、さまざまな形でしっかりと情報を発信して生活者の皆さんに意識してもらえる仕組みについても、これから整えていきたいです。

 

廣瀬 僕自身は、食品を買う時はトレーサビリティー(原材料の調達から廃棄までの経路)を気にしたり、オーガニックの表示を見たりするようになってきました。パッケージだけで商品を選択する状態にまではなっていませんが、選択肢が複数あって悩んだときには、環境に配慮している方を選ぶようにはなりました。

 

――“ごみ”がもう“ごみ”ではなくなるまで、生活者がリサイクルを意識していくためには、どういう取り組みが必要になってきますか?

 

柴田 私たちが重要だと考えるのが、「生活者のみなさんがストレスを感じないこと」です。利便性や快適性を損なうことなく、自然な形で資源の循環ができるように、世の中のパッケージのすべてをリサイクルしていくことを“あたりまえ”にしていきたいです。

 

廣瀬 コロナ禍を経験し、“あたりまえ”と考えてきたことが実は“あたりまえ”ではないということに多くの人が気づきだしていると思います。プラスチックや環境の問題も含めて、自分がいま、どんな決断をしたら、将来にどんな影響を及ぼすかを考えないといけませんよね。それは誰もがすぐできることではありませんが、少しずつ裾野を広げることも大切です。環境への意識が高い若い人たちとも連携して、次の世代のために行動していきたいと思います。

 

柴田 私たちは「捨てるを還(かえ)すへ」というメッセージを掲げており、これからもパッケージの未来を変えていきたいと考えています。

リサイクル技術が進化することで、ごみを一気に回収してすべてを再生できる可能性も十分にあると思っています。缶やビンを「資源ごみ」と呼ぶように、ごみだけれど資源にしていこうという意識はすでに根付いていると思っています。

すべてのものが資源ごみになれば、リサイクルができない“ごみ”という言葉がいずれなくなるかもしれません。その実現には、DNPだけではなく、あらゆるステークホルダーが手をつないでいかなければいけません。

DNPが目指す資源のエコシステムのイメージ図
DNPが目指す資源のエコシステムのイメージ図

廣瀬 ごみ箱を世界からなくすには、行政や企業、そして僕たち生活者のそれぞれの努力が必要ですね。

ただ現実は、ごみはごみだと認識されていることも確かです。いまはまだ、捨てるのではなくて還していかなくてはいけないことを理解してもらう努力をしていくフェーズ(段階)です。

ごみは捨てるものだという固定概念を覆すきっかけづくりも大事です。その意味でも、「Recycling Meets Design」のプロジェクトなどを通じて貢献できればと考えています。

 

デザインの力で循環型社会の実現に挑むDNPの「Recycling Meets Design™ Project」について

 

柴田 廣瀬さんをはじめ、ステークホルダーの方々との協業は、非常に重要なポイントです。幅広い業界の方々とお付き合いできているのはDNPの強みです。リサイクルしやすいパッケージを作るだけでなく、それらがきちんとリサイクルされる仕組みを作り、さらにデザインの力などで価値を高める取り組みにもつなげていく。こうした想いを実現するため、さまざまな出会いや接点を大事にして、お互いに手を取り合いながら「未来のあたりまえ」に向かっていきたいと思います。

(聞き手:bizble編集長 高橋克典)

 

【プロフィール】

廣瀬 俊朗(ひろせ・としあき)

1981年、大阪府生まれ。5歳からラグビーを始め、北野高校、慶応義塾大学を経て、2004年に東芝に入社。2007年に初の日本代表入りを果たし、2012年には「エディーJAPAN」の初代キャプテンに。2015年のW杯で3勝を挙げたチームの躍進に貢献した。現在は株式会社HiRAKUの代表取締役として、元アスリートならではの視点を生かした活動を行っている。

柴田 あゆみ(しばた・あゆみ)

大日本印刷株式会社 包装事業部イノベーティブ・パッケージングセンターの環境ビジネス推進グループ リーダー。2003年に入社。包装研究所で機能性フィルムの開発に従事した後、「DNP植物由来包材 バイオマテック」の開発や販売促進に携わり、パッケージが環境に与える影響についてデータ解析する調査を担当した。2019年から現部署で、主に製品開発の視点から環境問題に取り組んでいる。

 

 

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