三菱系の大手企業に勤めながら徹底した倹約と資産運用を続け、30歳でFIRE(Financial Independence, Retire Early=経済的自立と早期退職)を実現した穂高唯希さん。FIREという生き方の魅力やFIREがいま注目される理由、FIREと従来の早期退職の違い、FIREの目指し方などについて、実体験を元にお伝えします。
「節約」ではなく「支出の最適化」を用いる理由
こんにちは、穂高 唯希です。
コラム第5回は、私がFIREを達成する原動力の1つとなった米国株投資に焦点を当ててみたいと思います。
私がFIREに至った方法というのは、端的に述べれば「支出を最適化し、給与からできるだけ多くの額を米国株へ毎月ひたすら投資し続け、受取配当金を積み上げた」という一文に集約されます。
受取配当金という資産所得が生活費を超えれば、一応の経済的自由を得られたと見なすことができます。
ちなみに私は「節約」という言葉は使わず、「支出の最適化」という呼び方をしています。
無理に支出を削るニュアンスが含まれがちな「節約」ではなく、あくまで価値観に沿って「支出を最適化する」という前向きな響きのほうがしっくり来るからです。
FIREに至った具体的な道筋やマインド、投資や支出最適化の手法等については、拙著「本気でFIREをめざす人のための資産形成入門-30歳でセミリタイアした私の高配当・増配株投資法-」に詳述していますので、そちらに譲ります。
今回のコラムでは、米国株などの株式への長期投資をしてきた私から見て、「米国株投資の表と裏」について記してみたいと思います。
「米国株が最強」「米国株が最適解」とよい面を挙げることは簡単ですが、表があれば必ず裏があります。
昨今すっかりブームとなった米国株投資。
だからこそ、あえてその裏についても焦点を当てたいと思います。
私たちの暮らしにあふれる米国の商品・サービス
まず米国株のよい面である「収益面の過去実績」を紹介します。
歴史的に傑出したリターン(収益)をたたき出してきました。
米国の代表的な株価指数「S&P500」は、1921~2021年の100年間において、年率平均6.7%の勢いで成長しました。
1991~2021年の30年間では年率平均9.2%です。
資産形成をする場合、米国株は歴史的に一貫して最適解の1つであり続けてきた、と言えると思います。
だからこそ拙著でも米国株の優位性に紙幅を割きました。
日米間の租税条件や国内の税制に大きな変更がないなどの前提条件が満たされるなら、米国株投資は今後も有力な投資対象と言えるでしょう。
収益以外に、社会的な意味でも米国株投資には様々な側面が見いだせます。
米国にはロッキード・マーチンという会社があります。
軍事・宇宙などの事業を手掛け、日本もロッキード・マーチン製の戦闘機を購入しています。
自国で同等の戦闘機を生産しているなら価格交渉力はあるでしょうが、そうでない場合はどうしても言い値で米国から買わざるを得ない部分があると推察されます。
私たち日本人は間接的に米国企業の成長に貢献している、とも言えます。
グーグルで検索をし、アップルのスマートフォンを使い、グーグル傘下のYouTubeを見て、アマゾンで物品を購入し、ネットフリックスで映画を観て、ロッキード・マーチンの戦闘機で国防を図る――。
いつのまにか私たちの生活は米国製品であふれています。
他にも挙げればきりがありません。
日本企業のクラウドにはセールスフォースの製品も散見されますし、PDFはアドビ(Adobe)によって開発されたものです。
映画で大人気のマーベル作品はウォルト・ディズニーの事業です。
日本で大人気のコストコも米国企業です。
今挙げた企業は、いずれも株価が勢いよく伸びました。
知ってか知らずか、米国企業の収益に貢献している日本、という構図が浮かび上がります。これら企業の株式を購入すれば、配当金や値上がり益という形で、収益の一部を私たち日本人の財布に戻すことができるとも言えるでしょう。
経済成長と軌を一にして起きている負の変化
一方、大きく収益を上げている企業というのは、同時に負の側面を包含していることもあります。
S&P500の推移をもう一度見てみましょう。
次に、世界全体の人口、実質GDP、都市人口、エネルギー消費量の推移を見てみましょう。
上の2枚の図には共通点があります。
それは「特に1950年ごろから急激に伸びている」という点です。
S&P500の伸びは、1900~1950年の50年間で約3倍(6→17)にとどまったのに対し、その後の50年間(1950~2000年)では約80倍(17→1425)と急伸しました。
インフレ分を差し引いても、近年はすさまじい勢いで伸びています。
投資家にもそれだけ大きな収益をもたらしたことになります。
ではその間、世界でどのような変化が起きたか、見てみましょう。
二酸化炭素、窒素酸化物、地温など、増えすぎると地球環境に好ましくない影響を及ぼしうるものが、同様に1950年ごろを境に急増していることがグラフから読み取れます。
表があれば、往々にして裏があります。
米国株が示した驚異的なリターンと軌を一にするように、地球には大きな変化が生じてきました。
近代資本主義では、人々の欲望が原動力となって、技術革新や生活・医療の向上といったポジティブな面がもたらされました。
一方で、ネガティブな面もあるということですね。
米国のグローバル資本などを含む先進国の豊かさの裏には、途上国に対する
・廉価な労働力の搾取
・資源の収奪や生産物の買い叩き
・環境負荷の転嫁
などが見え隠れします。
グローバル資本の縫製工場における労働環境などは典型例でしょう。
今までは先進国の人々が、意識しないと見えない(または見たくない)「遠くの国」で不都合な真実が進行していました。
しかし現在は、環境負荷という形で、先進国でもその不都合な真実が見えやすくなってきたのではないでしょうか。
絶好調の米国株「期待はしても過信はせず」
私も米国株へ投資しています。
これからも大きな根本的な変化がない限りは、一定の資金を米国株に割き続けるでしょう。
しかしその一方で、以上述べたような事実も認識しておきたいところです。
歪(いびつ)な構造や行き過ぎたものには、必ずと言ってよいほど「揺り戻し」が生じると考えています。
物事にはさまざまな側面があります。
目下調子のよい対象(今で言えば米国株)に盲目的になりすぎず、常に冷静かつ客観的に適切な距離を保つことです。
対象の二面性を踏まえた上で株式投資に取り組むと、事態の変化にも柔軟に対応できると思います。
株式というものは、為替と並んで経済の重要指標であり、現代の社会構造を端的に示唆するものの1つです。
FIREをめざす過程でも、達成したあとでも、「情報をただ受け入れるだけではなく、対象の表と裏という二面性を主体的に考える」ことが極めて重要だと私は思います。
いつの世にも盛者必衰の理は存在するでしょう。
今やすっかりブームとなった米国株投資においても、好調な時こそ、「期待はしても過信はせず」とありたいですね。
(このコラムは月1回掲載予定です)