「推し」の根底にはあるものとは。Z世代は「ステレオタイプ」な恋愛に疑問?

「推し」の根底にはあるものとは。Z世代は「ステレオタイプ」な恋愛に疑問?

ライフ・マネー

「推し」の特徴は「同じ推しをもつ仲間と共に盛り上がること」?

AさんもBさんも、恋人はいません。二人とも恋愛に興味がないわけではない、でも「いまは誰かと、わざわざ付き合う必要性を感じない」と口を揃えます。

「だって1日中、JINのことばっか考えてる。“ARMY(BTSファンの名称)の子たち”とLINEで妄想し合ったり、『次のファンミ(ファンミーティング)で、どうやってJINに感謝を伝える?』なんて相談し合ったりするだけで、もうお腹いっぱい」(Aさん)

先の調査(Trend Catch Project)でも、1日(24時間)のうち50%以上の時間は、推しについて考えている、とする主旨の回答が、女子高生・女子大生全体の約8割にものぼりました。もちろん、12時間以上「推しだけ」を考えているわけではないものの、仕事や食事しながら常に頭のどこかに、推しの存在があるとのイメージでしょう。

女子高生・女子大生に聞いた「1日のうちどれくらい『推し』について考える?」への回答結果=<a href="https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000057887.html">Trend Catch Project調べ</a>
女子高生・女子大生に聞いた「1日のうちどれくらい『推し』について考える?」への回答結果=Trend Catch Project調べ

また、ここで勘が鋭い方はAさんとBさんに共通する「ある言葉のニュアンス」に気づいたかもしれません。

それは、“みんな”と“ARMYの子たち”、すなわち、同じ推しをもつ仲間と共に盛り上がる、との概念。これこそが「推し」と、従来の「萌え」などとの大きな違いとも言われます。

「『萌え』から『推し』の時代に移り変わったのは、2010年ごろではないか」と話すのは、「エンタメ社会学者」の肩書を持ち、早稲田大学ビジネススクールやシンガポール南洋理工大学でも教鞭を取る、中山淳雄さん。2021年刊行の「推しエコノミー」(日経BP)の著者でもあります。

2010年ごろから「萌え」→「推し」に

中山さんいわく、グーグルトレンドで「萌え」と「推し」の検索数を見ると、2010年ごろを境に廃れていく「萌え」と、勃興していく「推し」との違いが明確に分かるとのこと。

 

また、「萌え」ではキャラクターやタレントなどの対象に、多くの人が内的な(恋愛とも性愛ともつかない)感情を示したのに対し、「推し」では「(対象に)何かを与えたい」「共に何かをしていきたい」との感情に変わったと中山さんは指摘します。

まさに、先のAさんやBさんが言う、推し仲間と共に「LINEで妄想し合う」や「ファンミで(推しに)感謝を示す」、あるいは「ツイッターで盛り上がる」も、その象徴でしょう。

 

マーケティングの世界でも、昨今は「共創」の重要性が叫ばれます。

初めは不完全なβ版であっても、その商品やサービスを推す人達から、さまざまな意見をもらったり、推す人達どうしがゆるく繋がって「もっと(推しの対象の)完成度をあげたい」「人気者にしたい」と盛り上げたりしていくことで、皆で共に成長していこう、市場を熱くしよう、との発想です。

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とくにZ世代は、「誰かの役に立ちたい」との貢献意欲が強く、共創への参加意欲も高い。私も企業との商品・サービス開発で、彼らの熱量に驚かされます。

 

さらに中山さんは、「推しの根底には、ステレオタイプな『家族形成』からの解放もあると思う」といいます。

彼が言う、家族形成の代表的なパターンが、恋愛や性愛を、「恋愛→結婚→性愛(含・セックス)→出産(子作り)」という一連の流れで考える、「ロマンチック・ラブ・イデオロギー」。

すなわち、恋愛の先に結婚や性愛があり、最終形として「出産(子作り)→家族形成」があるとの考え方ですが、この概念がすでに賞味期限切れを迎えていると中山さんはいいます。

その理由について、中山さんは

「理由の一つは、1980~1990年代にかけて『恋愛・性愛革命』が起きたから。このころ、従来の『恋愛→結婚』路線と切り離し、『性愛』を起用に使いこなす層が一般化したと考えられます」

と指摘します。

 

推しはみんなでシェアできる。だから不公平感が生まれにくい

 

このころを境に、不倫やセフレ、ソフレ(添い寝フレンド)など、恋愛や結婚、出産と切り離された多様なケースが、どんどん社会に広がっていった。

またバブル崩壊後、2000年代には、年収や正規・非正規など雇用形態による「恋愛格差」が露呈。2002年に離婚件数がピークに達したこともあり、「家族形成」への疑問が高まりました。

 

そんななか、恋愛や性愛に近い感情でもある「萌え」が台頭し、やがてそれが、Z世代もハマる「推し」へと進化(変化)していったのかもしれません。

脳科学的にも、恋愛と「推し活」は、脳内に分泌される物質が似ているとも言われます。

 

たとえば、「推し」を応援する過程で、「〇〇の魅力をSNSに投稿しよう」などとする行動の原動力となるのが、ドーパミン。「報酬系ホルモン」と呼ばれるこの物質は、恋愛中の男女が恋人の写真を見た瞬間にも活発に分泌され、恋愛感情を高めることが分かっています(ヘレン・フィッシャー氏の研究(2005年※)などによる)。
※Fisher, H.:Romantic love:an fMRI study of a neural mechanism for mate choice. The Journal of Comparative Neurology, 493:58-62, 2005

「しかも、推しは恋愛と違って、対象と『1対1』である必要はない。限られた魅力的リソースを奪い合うのではなく、皆でシェアして共に高め合えるわけですから、連帯を感じやすい一方、争いも不公平感も生まれにくいわけです」と中山さん。

 

さらに推しの対象が「仮想キャラ」など人間以外であれば、第三者と恋愛・結婚されてしまうなど、裏切られるリスクも低い。その分、心理的ダメージにも受けにくいでしょう。

技術の進歩で、推しの対象も多様化へ

2017年、フランスで「近い将来、ロボットと恋におちる若者が増えるかもしれない」との調査結果が発表されました。

大手広告代理店が、世界各国で総勢約1万2000人に調査したところ、18~34歳(当時。含・Z世代)の4人に1人以上が「ロボットとのデート」に肯定的だったとのこと。とくにイギリスの男性は、女性の3倍以上も、「ロボットと付き合ってみたい」と回答したそうです(Havas(ハバス)調べ)。

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実は日本でも、すでに東京藝術大学などが「恋する気持ち」をもつ“ロボット”の研究に取り組んでいます。今後、バーチャルがよりリアルに近づくにつれて、推しの対象も確実に多様化していくはず。

そう考えると、Z世代はこの先ますます、従来型の「ロマンチック・ラブ・イデオロギー」とは別の恋愛(的な)感情を見せていってくれるのではないでしょうか。

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