コンビニスイーツは新たな「四番打者」になれるか。始まった高品質・高価格への挑戦

コンビニスイーツは新たな「四番打者」になれるか。始まった高品質・高価格への挑戦

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前回コラムでは、今のコンビニに必要なのは新たな主力商品、野球で言うところの「四番打者」だとお伝えした。コンビニでは長らく、「おにぎり」「米飯弁当」「おでん」が売上を牽引(けんいん)してきた。これらに衰えが見られる中、新たな「四番」候補に浮上したのがコンビニスイーツである。歴史をひもときながら、今なぜコンビニスイーツなのかを考えたい。

私たちの暮らしに欠かせないコンビニ。優れた商品や便利なサービスを次々に提供する一方、各チェーンは人件費の高騰、食品廃棄、24時間営業の維持など新たな問題も抱えています。「月刊コンビニ」元編集長の梅澤聡さんが、コンビニが描く新しい未来を、50年の歴史を踏まえて解説します。今回のテーマは「コンビニの次なる主力商品は何か」についてです。

コンビニコーヒー定着で、スイーツに脚光

初めて販売するわけではないが、何かのきっかけで売上が急増する商品がある。

最近では「コンビニコーヒー」がそうだ。

 

カウンターで提供するコンビニコーヒーは、実はセブン-イレブンが1977年から導入と撤退を繰り返し、現在の姿につなげたと前回コラムで書いた。

ボタンを押すと電動ミルが豆をひき、良い香りがふわりと広がり、やがてカップにコーヒーが抽出される。

昔のコンビニコーヒーはドリップした後の作り置きで、おいしくなかったと当時の関係者は証言している。

いれたてを実現したことと、缶コーヒーより安い100円(税込み)という価格設定が、お客に支持される要因となった。

コンビニコーヒーはコンビニの定番商品に育った=2017年12月、セブン-イレブン千代田二番町店、筆者撮影
コンビニコーヒーはコンビニの定番商品に育った=2017年12月、セブン-イレブン千代田二番町店、筆者撮影

カフェと同レベルのコーヒーがコンビニで手軽に買えるようになり、人々がレギュラーコーヒーを飲む機会は増えた。

店からすると、1日100杯売ったら1万円以上の売上になる。

日販(1日の売上高)が50~60万円の店にとって、1万円のオンは大きな貢献になる。

 

本格的なコーヒーが定着したら、次に売りたい商品はスイーツである。

コーヒーとスイーツは相性が良い。

「カフェ&スイーツ」の利用を促せば、新たな来店動機を掘り起こし、客数と売上が増える可能性がある。

つまり、コンビニのスイーツには、新たな「四番打者」に定着する潜在能力があると言える。

生ケーキの草分けは名古屋のサークルK

草創期のコンビニ業界で、本格的な生ケーキを手掛けたチェーンがサークルKだ。

母体のユニー(本社・愛知県稲沢市)が1980年3月に名古屋に開いたサークルKの1号店「島田店」では、専用の冷蔵ケースに地元メーカーの生ケーキを並べたところ、意外な売れ筋になったという。

コンビニで何が売れるのか模索していた時代である。

 

ところが生ケーキの販売は長くは続かなかった。

既存の配送ルートで品質を保てるのか、店舗の従業員が他の商品同様にストレスなく扱えるのか、といった課題があった。

 

例えば洋菓子専門店では、繊細な技巧が施された色とりどりのケーキがショーケースに並んでいる。

注文を受けたスタッフは、トングを使ってケーキをそっとつかみ、ていねいに紙箱に並べていく。

受け取ったお客も、紙箱の中のケーキが崩れないよう、持ち運びに気を配る。

お店とお客の連携があって、専門店のケーキを自宅で楽しむことができるのだ。

セブン-イレブンはスイーツを幅広い価格帯で展開するが、近年は税込み300円超の商品が増えている=筆者撮影
セブン-イレブンはスイーツを幅広い価格帯で展開するが、近年は税込み300円超の商品が増えている=筆者撮影

一方のコンビニは、ありとあらゆる形状の商品がトラックの荷台から下ろされ、バックヤードに積まれていく。

スタッフはお客の少ない時間帯を見計らい、次から次へと棚に商品を並べていく。

1つ1つの商品をじっくり見ている余裕はない。

語弊があるかもしれないが、「雑に扱っても売り物になる」商品しか扱えないのだ。

 

そこに突破口を見いだしたのが、1995年ごろ開発されたセブン-イレブンの生ケーキだった。

当時、商品本部にいた本多利範氏(現・本多コンサルティング社長)は、新商品の開発会議で生ケーキの販売を提案したが、配送や販売が難しいと却下された。

その後もアイデアを練り続け、生ケーキをプリンのようなプラスチックケースに収め、コンビニの店頭でも簡単に販売できるようにした。

 

店のスタッフが少し雑に扱うだけで「不良品」になるようでは、コンビニに置くことはできない。

プラスチックケースに収まっていれば、手で直接つかんで陳列しても、お客がセルフでレジに運んでも、レジ袋を揺らしながら家に持ち帰っても、商品の形状は維持される。

逆に言えば、イチゴがすぐに転がるようなショートケーキは販売できないということだ。

こうしてコンビニスイーツの原型ができあがっていった。

大ヒットしたローソン「プレミアムロールケーキ」

2000年代に入り、コンビニ間の競争が激しくなると、チェーン本部は目的来店性(その商品を目当てに客が来店してくれること)が高い商品カテゴリーの強化に乗り出した。

それまでのコンビニスイーツは、各チェーンがヒット商品を世に出すものの、単発の訴求で終わってしまっていた。

 

そこでサークルKサンクスは2007年、スイーツ専用のブランド「シェリエドルチェ」シリーズを立ち上げた。

「窯出しとろけるプリン」「濃厚焼きチーズタルト」といった、専門店品質に1歩近づけたブランドの訴求を始めたのだった。

ここにはサークルKサンクスが抱える課題があった。

ファミリーマートは他チェーンと比べ、価格をやや抑え気味。200~250円近辺で勝負をかけている=筆者撮影
ファミリーマートは他チェーンと比べ、価格をやや抑え気味。200~250円近辺で勝負をかけている=筆者撮影

サークルKサンクスは、文字通りサークルKとサンクスが経営統合したチェーンだ。

サークルKは愛知県発祥で、地域性ゆえ車の利用が便利な郊外ロードサイド立地を中心に店舗網を築いていった。

お客はドライバーが多く、男性客の比率が7割と高かった。

たばこ、弁当、飲料、雑誌など、男性客が好む商品カテゴリーを強化していた。

 

こうした状況で売上を伸ばすには、現状の「男性客≒大盛り弁当」を土台にしつつ、いまだ来店していない新規の客層にアプローチするべきだ。

そこで「女性客≒スイーツ」と考え、ブランド訴求を強化し始めた。

 

その結果、こだわりのブランド「シェリエドルチェ」は一定の成果を得た。

セブン-イレブンが2008年に「なないろカフェ」、ミニストップが2009年に「ハピリッチ」と、スイーツの新ブランドを相次いで立ち上げた。

 

コンビニスイーツに光が当たる中、ローソンが2009年に発売した「プレミアムロールケーキ」は大ヒットを記録した。

この「プレミアムシリーズ」は購入者の女性比率が47%と、当時のローソンの顧客の男女比率(男性70%、女性30%)と比べて非常に高かった。

プレミアムロールケーキは現在も改良を重ねながら、ローソンの売れ筋として「定番」のポジションを確立した。

ローソンのプレミアムロールケーキは発売以来のロングセラー。ローソンのスイーツの看板商品だ=ローソン提供
ローソンのプレミアムロールケーキは発売以来のロングセラー。ローソンのスイーツの看板商品だ=ローソン提供

コンビニスイーツは新たな「四番打者」として期待され始めた。

しかし、キャッチーな洋菓子を訴求するカフェや、街なかの洋菓子専門店、デパ地下などでスイーツの新作が次々と生まれ、市場は百花繚乱の状態に。

「インスタ映え」という言葉も生まれ、スイーツはネットに画像を上げる格好のアイテムになった。

コンビニスイーツも100~200円という大衆的なマーケットの中で、味と見栄えに磨きをかけていった。

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