30歳ごろからのキャリア「私も立ち止まって考えた」。金井宇宙飛行士に聞く職業選択

30歳ごろからのキャリア「私も立ち止まって考えた」。金井宇宙飛行士に聞く職業選択

テクノロジー

宇宙にいない時、宇宙飛行士は何をしているのか

――宇宙飛行士の仕事にはどんなものがありますか。

一番大きな仕事は、もちろん宇宙飛行をすることです。

ミッションが決まると、打ち上げの1、2年前から訓練をみっちりと受けます。

ジョンソン宇宙センターで水中訓練用の宇宙服を着る様子 ©JAXA
ジョンソン宇宙センターで水中訓練用の宇宙服を着る様子 ©JAXA

訓練はアメリカ・ヒューストンにあるNASA(米航空宇宙局)のジョンソン宇宙センターのほか、日本やロシア、ドイツの訓練施設を転々とします。

次のミッションが決まっていない宇宙飛行士は、講演をしたり取材を受けたりして、宇宙開発業界で起きていることを伝えるアウトリーチ活動をするほか、ISSの運用をサポートする地上業務を担当します。

NASAの管制室で、ISSに向かう日本の宇宙ステーション補給機「こうのとり」を支援する金井宇宙飛行士 ©JAXA/NASA
NASAの管制室で、ISSに向かう日本の宇宙ステーション補給機「こうのとり」を支援する金井宇宙飛行士 ©JAXA/NASA

私は管制官の資格を持っていて、筑波宇宙センターからISSの日本実験棟「きぼう」の運用を行っています。

それから、ISSで宇宙飛行士が使うマニュアルを準備したり、宇宙で使う新しい実験機器を開発する際には宇宙飛行士の視点で携わったりすることもあります。

 

――訓練が始まるとやはり忙しいのでしょうか? プライベートの時間は取れますか?

やはりミッションが決まると、訓練のウエイトが大きくなり、プライベートの時間は切り詰められてしまいますね。

選抜試験で宇宙飛行士の候補者に選ばれた後、正式に宇宙飛行士になるための基礎訓練と、ミッションに向けての訓練があります。

この2つの訓練の期間中は仕事を優先しないと、宇宙飛行の準備は難しいと思います。

ある程度の割り切りと、「子どものこのイベントは重要なので、何とか都合をつける」とか、うまい判断が必要です。

 

逆に言うと、私は基礎訓練を終えてミッションにアサインされるまでの約8年間は、先ほど紹介した地上業務が中心でした。

家族のケアもできましたし、自分の時間を持つ余裕もあります。

 

――仕事を優先しなければいけないタイミングがあるのは、他の仕事でも言えることですね。

そうですね。

医師として働いていた頃も、プライベートを削って頑張らないといけない時はありました。

キャリアを積んでいく上でターニングポイントになるような時期です。

この点は、宇宙飛行士になってもならなくても変わらなかったと言えそうです。

 

とはいえ、宇宙飛行士になるには、やはり覚悟が必要です。

宇宙飛行は100%安全と言い切れる仕事ではありません。

どんなに技術が発展しても、最悪の場合はロケットが爆発して、自分が死んでしまうリスクだってあります。

金井宇宙飛行士らを乗せたソユーズロケットの打ち上げの様子 ©JAXA
金井宇宙飛行士らを乗せたソユーズロケットの打ち上げの様子 ©JAXA

本人は「宇宙に行ける。やったぜ」って、やる気満々だし、楽しいんですよ。

でも、自分ひとりで生きているわけではなく、支えてくれている両親や妻、子どもがいます。

私の家族はずっと応援してくれていましたが、自分の子どもが、夫が、パパが死んでしまうかもしれないという、大きな心理的負担をかけていたはずです。

 

それでも家族は覚悟を決めて、ロシアまで打ち上げを見にきてくれました。

感謝しています。

宇宙飛行士を目指す方にはハードルを上げるようで恐縮ですが、そういう不安を家族に与えつつ仕事をしなければならないことをご理解の上で、一歩踏み出していただきたいです。

日本独自の有人宇宙船開発に携わりたい

――宇宙飛行士になってよかったと感じるのはどんなときですか。

医師を続けていたらできなかった経験ができたときです。

もちろん、宇宙空間で重力がない世界を体験できたことも挙げられます。

でもそれ以上に、多国籍、多職種のみなさんと同じチームの一員として、1つの目標に向かって仕事をさせていただいたことは、自分自身の世界が広がる経験でした。

ISS滞在中に撮影された記念写真。右上が金井宇宙飛行士 ©JAXA/NASA
ISS滞在中に撮影された記念写真。右上が金井宇宙飛行士 ©JAXA/NASA

――金井さんご自身の今後の目標を教えて下さい。

医師としての経験と宇宙飛行の経験を、宇宙開発にどう生かしていくのかが次のチャレンジです。

 

民間企業による宇宙旅行が盛んにニュースになっています。

最近では90歳の俳優さんが宇宙旅行に行かれました。

旅行で宇宙に行く方々の健康管理は課題です。

 

そして、次の日本の目標は、独自の有人宇宙船を開発することだと思っています。

健康を守るという観点で開発に携わってみたいですね。

 

それから、月や火星に人が行くようになれば、急病人が出たときに現地で対応できる宇宙病院のようなものが必要になるかもしれません。

こういうことに、自分の専門性をもとに何か貢献できないかと考えています。

ISSから帰還後、筋力やバランス感覚を取り戻すためリハビリに励む金井宇宙飛行士=2018年6月、茨城県つくば市、朝日新聞社
ISSから帰還後、筋力やバランス感覚を取り戻すためリハビリに励む金井宇宙飛行士=2018年6月、茨城県つくば市、朝日新聞社

――終身雇用が当たり前ではなくなり、キャリアアップのための転職を考える人も増えています。宇宙飛行士の経験をさらに別の職業に生かそうと考えたことはありますか。

アメリカでは宇宙飛行士になった後、議員になったり、民間の宇宙開発企業に転職したりする方もいます。

宇宙飛行士のセカンドキャリアは決して変な話ではないと思いますよ。

 

私自身は、宇宙飛行士を辞めて別の道に進もうと考えたことはありません。

でも、医学と宇宙飛行分野の仕事は向いていると思うので、日本の民間企業が有人宇宙船を開発するなら、協力したいです。

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