「宇宙と地上を結ぶ、地球1周90分のライブ番組」誕生の背景とは 仕掛け人のバスキュール社長に聞く

「宇宙と地上を結ぶ、地球1周90分のライブ番組」誕生の背景とは 仕掛け人のバスキュール社長に聞く

テクノロジー

年越し番組で、宇宙から見た初日の出

――宇宙と言っても、ロケットや人工衛星の開発をはじめ、様々なものがあります。ISSを選んだのはなぜですか。

その理由は明確です。

すでに建設が完了しているISSを活用できれば、ハードウェアの開発がいりません。

当初、衛星を打ち上げることなども考えたんですが、とんでもないコストと時間がかかることが分かり、ソフトウェアとデザインの力だけで何とかなるものに特化しようと決めました。

ちょうどJAXAがISSを使った事業を募集していて、タイミングも最高でした。

日本実験棟「きぼう」で作業にあたる星出彰彦宇宙飛行士。ISSには通信環境や電源など基本的な設備がそろっている ©JAXA/NASA
日本実験棟「きぼう」で作業にあたる星出彰彦宇宙飛行士。ISSには通信環境や電源など基本的な設備がそろっている ©JAXA/NASA

思いがけず手に入った株式売却益を活用する際、ロケットや衛星から作っていたら税金が発生しちゃうのでね。

1年で結果が出せるISSを舞台にしようと、爆速でプロジェクトを進めていきました。

 

ISSを利用できる一番大きなメリットは、宇宙で24時間インターネットに接続されていることでした。

一般的な人工衛星の場合、地上局の上を通過するタイミングでしか通信ができません。

つまり地球1周のライブ配信って、ISS以外では不可能なんです。

地球1周を丸ごとライブ配信するのって、貴重なことなんですよね。

 

――実際にライブ配信をして、難しかったことはありますか。

まず、なんと言ってもセキュリティが厳しいことです。

ISSはアメリカやロシア、日本などなど15カ国が共同で運用しています。

どこの国のものでもないので、何かするときにはJAXAだけじゃなくて、NASAを始め、各国の宇宙機関と調整が必要です。

 

また、ちょっとした通信テストをするにも宇宙飛行士の稼働が必要で、大変な労力がかかります。

ISSの設備を外からコントロールするという面倒なことを考える民間企業はなかったようで、バスキュールが初だと言われています。

 

それから、ISSのインターネットへの24時間接続は、複数の通信衛星を使って実現しています。

ISSはすごいスピードで地球を回っているので、通信を続けるには衛星の切り替えが必要です。

でも、切り替えのたびにインターネットが途切れるんですよね。

その瞬間は宇宙からの映像が届かないので、地上スタジオのカメラに切り替えるなど、番組作りにパズルのような工夫が必要でした。

2回目の番組の様子。地上スタジオから俳優の松岡茉優さん、宇宙飛行士の山崎直子さんらが出演した ©KIBO宇宙放送局
2回目の番組の様子。地上スタジオから俳優の松岡茉優さん、宇宙飛行士の山崎直子さんらが出演した ©KIBO宇宙放送局

2回目の配信は特に大変でした。

2021年になった瞬間に「Happy New Year」というメッセージをディスプレイに映したのですが、1日午前0時0分6秒に通信が途切れることが本番の数日前に分かったんです。

無事に映せたのでよかったものの、もし年越しの瞬間に通信が途切れたらと考えると、今でもぞっとします。

 

このように、僕らの力ではコントロールできないことが宇宙にはたくさんあります。

でも、こんなことにハラハラする会社があるって、なんだか面白いですよね。

 

――配信の視聴回数はどのくらいでしたか。

初回は約15万回にとどまりました。

人気俳優の中村倫也さんと菅田将暉さんに出演していただいたのに、申し訳なかったです。

でも、彼らのファンを始め、新たな人たちに宇宙を身近に感じてもらえたのは意味のあることでした。

1回目の番組の様子。左がISSスタジオ、右が地上スタジオ ©KIBO宇宙放送局
1回目の番組の様子。左がISSスタジオ、右が地上スタジオ ©KIBO宇宙放送局

――ISSを使った番組だからといって、視聴者が増えるわけではないのですね。2回目の配信はどうされたのですか。

 1回目の配信は、少しでも宇宙に関連のある日にしようと、ペルセウス座流星群の夜に実施しました。

でも、流星群はまだまだ一般的じゃないと思い知らされました。

 

そこで2回目の配信は、誰もが知る年間行事と宇宙を結びつけようと、大みそかから元旦という年越しの時間帯を選びました。

宇宙から見た青い地球をみんなで眺めながら、1年の始まりを迎えられたら素敵じゃないですか?

もちろん90分間全部見てもらえればうれしいですが、「宇宙での年越しカウントダウン」や「宇宙の初日の出」の瞬間だけでも、みんなとつながれたらいいなと思いました。

2回目の番組の様子。宇宙から見た初日の出 ©KIBO宇宙放送局
2回目の番組の様子。宇宙から見た初日の出 ©KIBO宇宙放送局

人気キャラクター『ポケモン』や、年明けに最も投稿が増えるというTwitterなどとコラボした効果もあってか、視聴回数は555万回と大きく伸びました。

ただ、この成果は宇宙の力というより、人々の関心と宇宙をうまくつなげることができたからでしょう。

年越しという特別な瞬間に、宇宙という視点を掛け合わせることで、新しい感覚を届けることができたと思っています。

海外配信にも挑戦したい。目標は視聴者1億人

――「KIBO宇宙放送局」のビジネスモデルを教えて下さい。

スタートダッシュは、企業からの協賛金でコストをまかないました。

バスキュールも広告事業から始めたように、やはりスキームとして分かりやすいんですよね。

 

ただ、近いうちにプラットフォームビジネスに移行したいと考えています。

僕らはISSからの双方向ライブ配信を行う権利を持ち、配信管理もしています。

それをプラットフォームにして、世界中の制作会社にコンテンツを作ってもらえたら面白いなと。

 

BtoCビジネスも模索中です。

例えば、多くの日本人は初詣でおさい銭をしますが、宇宙でおさい銭やおみくじをする未来もあるかもしれません。

宇宙でクラウドファンディングというのも面白いですよね。

視聴者の思いをつなげる持続可能なビジネスモデルを見つけていきたいです。 

将来の構想を楽しそうに話してくれた朴正義社長=筆者撮影
将来の構想を楽しそうに話してくれた朴正義社長=筆者撮影

――今後挑戦したいことを教えて下さい。

これまでは日本向けに配信していましたが、海外向けにも配信したいです。

僕らのスタジオをプラットフォームにして、世界中のクリエイターがコンテンツを配信してくれたらうれしいです。

 

ISSはあと数年で運用が終了すると言われていますが、「毎年お正月は宇宙から地球を見る」というふうに「KIBO宇宙放送局」が行事として定番化すれば、民間企業が建設する商用宇宙ステーションを活用することもできます。

世界中の人々が宇宙から地球を見ながらつながれたら、「人類が進化している!」って感じがしますし、素敵ですよね。

視聴者数の目標は1億人です。

 

ただ目新しい表現を追うだけでは、スケールが小さすぎます。

バスキュールは、みんなと宇宙がつながるモーメントをデザインしています。

1000年以上続くクリスマスという行事のように、1000年後の人類が「宇宙の初日の出」を楽しんでくれていたら最高ですよね。

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