「宇宙と地上を結ぶ、地球1周90分のライブ番組」誕生の背景とは 仕掛け人のバスキュール社長に聞く

「宇宙と地上を結ぶ、地球1周90分のライブ番組」誕生の背景とは 仕掛け人のバスキュール社長に聞く

テクノロジー

ISSを次世代のクリエイティブの舞台に

衣料品通販サイト運営会社「ZOZO」創業者の前澤友作さんが12月、宇宙旅行に飛び立ちます。

滞在先である「国際宇宙ステーション(ISS)」は、地上400kmに浮かぶ、サッカー場ほどの大きさの実験施設です。

ISSはこれまで、訓練を積んだ宇宙飛行士だけが訪れられる特別な場所でしたが、徐々に民間開放が進みつつあります。

15カ国が協力して作り上げた国際宇宙ステーション(ISS)。この中に日本の実験棟「きぼう」がある ©NASA/JAXA提供
15カ国が協力して作り上げた国際宇宙ステーション(ISS)。この中に日本の実験棟「きぼう」がある ©NASA/JAXA提供

ISSが次世代のクリエイティブの舞台になるのではないか――。

いち早くそう目をつけたのは、ドバイ万博日本館や、活動休止中の人気アイドルグループ「嵐」の“ラストライブ”の体験演出を手掛けるなど、新たなつながりをデザインして未来の体験を生み出すクリエイター集団、株式会社バスキュールです。

 

バスキュールはISSにある日本の実験棟「きぼう」内に、スタジオ「KIBO宇宙放送局」を開設。

2020年8月、宇宙と地上にある2つのスタジオをつないだ双方向番組のライブ配信を、世界で初めて成功させました。

番組はこれまでに3回、インターネット配信やテレビ放送で視聴者に届けられました。

 

宇宙からのライブ配信は、どうやって行われているの?

ISSを舞台にしようと思ったのはなぜ?

どんなビジネスモデルなの?

バスキュールの朴正義(ぼく・まさよし)社長にお話をうかがいました。

まだつながっていないものをつなぎたい

――ISSを使ったライブ配信事業について教えて下さい。

「KIBO宇宙放送局」は、宇宙と地上をリアルタイムでつなぐ、世界で唯一の双方向スタジオです。

ISSが地球を1周するのにかかる90分の間、宇宙と地上をつなぐインタラクティブなライブ配信が可能になります。

 

スタジオについて説明すると、ISSの日本実験棟「きぼう」内にある、地球を望む丸い窓の隣に、宇宙飛行士がノートPCを設置します。

ISSはセキュリティがとても厳しいのですが、ノートPCを地上から操作できる仕組みを弊社が独自に開発しました。

それにより、地上から送られた映像や音楽、コメントをPCのディスプレイに映し出せるようになりました。

地球のどこにいても、スマホ1つあれば、宇宙にあるそのディスプレイで誰もがメッセージを発信できるのです。

 

ISSにいる宇宙飛行士が、ディスプレイの画面や、窓から見える地球の姿を撮影します。

その映像をISS→通信衛星→NASA(アメリカ航空宇宙局)→JAXA(宇宙航空研究開発機構)→地上スタジオと経由し、ISSと地上を双方向でつなぐ世界で唯一のスタジオを構築しました。

KIBO宇宙放送局の双方向番組の仕組み ©KIBO宇宙放送局
KIBO宇宙放送局の双方向番組の仕組み ©KIBO宇宙放送局

構想を練り始めた頃は、ISSに向かってくるロケットにプロジェクターで何か投影するとか、全く別なことを考えていました。

でも、やるからには「1回見たから、もうつまらない」なんて言われる一発ネタで終わらせてはいけないと。

継続できるものをつくって初めて意味があると心がけていました。

 

大事なのは見たことのない表現を追求することではなく、器が新しいこと。

これまで宇宙に携わったことのない人でも、宇宙でのコンテンツづくりに参加できるプラットフォームを作ろうと考え、「KIBO宇宙放送局」にというアイデアにたどり着きました。

 

――これまでにどんな番組を配信されましたか。

初回は2020年8月でした。

ISSと地上を双方向でつなぐライブ配信は世界初だったので、実証実験という位置づけでした。

視聴者から集まった希望のメッセージとともに、地球1周の旅を無事に達成できました。

 

2回目は2020年の大みそかから2021年の元旦にかけてです。

ISSから見える地球を見ながら年を越し、宇宙の初日の出を眺めました。

 

3回目は人気漫画『ワンピース』の100巻が発売された2021年9月3日に、キャラクターとコラボした番組を配信しました。

ちょうど星出彰彦飛行士がISSの船長に着任していて、ワンピースの主人公・ルフィとの船長対談が実現しました。

 

――宇宙空間を利用したコンテンツを制作するようになった経緯を教えて下さい。

バスキュールは「インターネットという新しいコミュニケーション技術を使って、新しいクリエーションに挑もう」と2000年に創業した会社です。

当時はまだTwitterもYouTubeもありません。

マスメディアと有名人だけが、自分の言葉を公に発信できる時代でした。

取材に応じるバスキュールの朴正義社長=筆者撮影
取材に応じるバスキュールの朴正義社長=筆者撮影

そこにあらゆるものを双方向につなぐインターネットが登場して、世の中の情報のヒエラルキーがひっくり返ろうとしていたのです。

その変化の真ん中にいたくて、バスキュールを立ち上げました。

 

まず手をつけたのは広告事業でした。

企業が出す広告の何割かは、必ずデジタルに置き換わると思ったからです。

手探りながらも、新しい表現や体験を追求する中でいくつもの広告賞を受賞し、「インターネットを使った新しいトライをするなら、バスキュールに頼むといい」という評判をいただくようになりました。

 

次にトライしたのがテレビ事業でした。

例えばテレビの視聴率が10%なら、1000万人が同じ時間を過ごしていることになります。

その人たちがネットでつながり合えば、誰もが家にいながら参加できる、お祭りのような体験をつくれると思ったのです。

それで日本テレビと合弁会社「HAROiD」(ハロイド)を立ち上げ、テレビとネットをつなぐサービスを始めました。

大量のデータを同時に扱えるシステムを開発し、いわばテレビの視聴者をユーザーに変換する準備を進めていたのですが、事情があって今のTVer(ティーバー)に株式を売却することになりました。

 

この資金を使って何をしようかと考えていた時に、ひらめいたのが宇宙でした。

地上波がダメなら、次は宇宙からやっちゃおうって!

創業時から、うちのスローガンは「宇宙と未来のニューヒーローを目指す。」だったんですが、ついにその時が来たぞと。

2005年につくったバスキュールのWebサイト。「宇宙と未来のニューヒーローを目指す。」とある=バスキュール提供
2005年につくったバスキュールのWebサイト。「宇宙と未来のニューヒーローを目指す。」とある=バスキュール提供

結局、僕たちがやりたいのは、まだつながっていないものをつなぐことなんです。

宇宙を舞台にすれば、地球とつながることができると直感しました。

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