大量の泡にまみれる、道を巨大なスライダーに変える、120万枚の花びらに埋もれるなど、奇想天外な発想力と実現力で、心踊る企画をつくり続ける体験クリエイター「アフロマンス」さんが“ワクワクをつくる企画術”を語ります。
恵比寿のとあるロッカーを開けると、秘密のミュージックバーにつながっている。音楽はレコードオンリー。これは人を連れて行きたくなる。
恵比寿のとあるロッカーを開けると、秘密のミュージックバーにつながってる。音楽はレコードオンリー。これは人を連れて行きたくなる。 pic.twitter.com/Wg4SHiQeid
— アフロマンス | Afro&Co. (@afromance) October 28, 2021
先日、とあるバーを訪れた時の投稿です。
気になった人が多かったようで、「あの店はどこなのか教えてもらえますか?」とたくさん問い合わせをもらいました。
「わかる」「ちょっと気になる」
そう思った人は、この投稿のどこが気になるポイントかわかりますか?
「ロッカーを開けたらバーにつながっているという部分」
そうですね。まず、そこが大きいポイントです。いわゆるアメリカ禁酒法時代のスピークイージー(隠れ酒場)のような世界観。
実は、あと2つほどポイントがあったかなと思っているのですが、それは最後に答え合わせをしましょう。
今日のテーマは、「あえて見せない」体験価値のつくり方です。
あえて見せないことで、気持ちをつかむ
「もっとわかりやすく伝えて!」
特に若手の時は、うまく伝えるスキルがないので、色んな場面で、「いかにわかりやすく伝えるか」の指導を受けると思います。
私も、大学時代にデザイン事務所でバイトをして、たくさんのお店のチラシやメニューをつくり、「誰が見てもわかりやすいデザイン」について学びました。大前提、「情報を整理してわかりやすく伝えるスキル」は大切で、今でも色んな場面で役立っています。
一方で、とにかく「わかりやすく伝える」を突き詰めていくのがいいかと言えば、そうとも限らない、というのが今日の話です。
若い頃、前職の広告代理店の部長に「君のプレゼンは、すぐにパンツ脱ぎすぎ!」と言われたことがあります。プレゼンは、相手に伝えること=とにかくわかりやすいことが一番だと思っていたので、当時は「面白くないって言われても・・・」と思っていました。
しかし、今となっては、言われたことがよくわかります。プレゼンは、相手に伝えることが目的ではなく、相手の心をつかむことが目的だからです。
「わかりやすさ」を突き詰めていくと、既定路線であったり、相手の想像の範疇(はんちゅう)であったり、「間違っていないけど、退屈なもの」になることがあります。
江戸っ子が着物の裏地に力を入れることを粋と感じるように、「あえて見せない部分をつくる」ことは、意外な展開や、いい意味での裏切りになり、心をつかむきっかけをつくります。
ただ、これは基本的なことができる・つくれる前提で、そこから見せない部分を引き算していくような感覚です。絵がうまい人がわざと荒く描いた絵と、ただ絵が下手な人の絵が似て非なるもののように、「あえて見せない部分をつくること」と「ただわかりにくいもの」は全然違うので、基本を疎(おろそ)かにしないように、気をつけましょう。
体験のストーリーとしてのワクワク感
また、この「あえて見せない」という企画は、受け手の目線に立たないとなかなかつくることができません。
つくる側や発信する側の気持ちは、
「1人でも多くの人に知ってほしい」
「1人でも多くの人に来てほしい」
なので、とにかくたくさんの情報を、わかりやすく伝えようとするのは当たり前です。そして、「あえて見せない」部分をつくるというのは、「1人でも多く」に反する気がしてしまいます。
ここで参考に、4万本の薔薇(ばら)と血の美食を楽しむイマーシブ(没入感のある)レストラン「喰種レストラン(グールレストラン)」の事例を紹介します。この企画では、「あえて見せない」部分をたくさんつくったのですが、もっとも象徴的なのは「場所非公開のレストラン」にしたことです。
「銀座某所・場所非公開」
「1万円の前売チケットを購入した方だけに、集合場所をお送りします」
場所非公開ということは「ふらっと入ってくる当日客はゼロになる」ということです。商売を考えるとそれなりにリスキーな気がします。しかし、場所非公開だからこそのワクワク感は確実にある。
この時は、前売で売り切るという強い気持ちで企画し、結果として発売数日で1ヶ月分が完売、期間延長した分もすぐに売り切れました。
ここで大事なことは、つくり手の「1人でも多く…」という曖昧な期待を捨てるところにあります。具体的に目標を決め、その目標を達成するように企画を設計すること。そして、「1人の体験者」の目線で、どういう体験のストーリーにすると、より面白く、満足度の高い体験になるのかを考えることです。
また、企画に際して、高級飲食事業についても研究したのですが、高級になるほど事前に公開されているメニューの写真点数が少ないことに気付きました。事前に全てを見てしまうと、当日のワクワク感が削がれるし、楽しむことより確認作業のような気持ちになってしまいます。
喰種レストランでも、すべてのメニューは事前に試作・撮影していますが、公開したのはそのうち2〜3点ほどです。これも1人の体験者の目線に立てば、必然性のある演出です。
ここでも大事なことは、基礎的なことです。
まず、公開されている情報で、そもそも興味がわかなければ、見せない部分をつくっても、気になることはありません。高級飲食店でメニューの写真を見せなくても成立するのは、お客さんからの信頼と提供側の自信があるからです。
また、見せない部分をつくることで、事前の期待値も上がるので、期待を超えるものを提供することも大切です。仮にたくさん人が来ても、期待値を下回ると残念な体験になり、本末転倒です。そこら辺は、以前書いたコラムに詳しく書いているので、気になる方は見てみてください。
「気になるポイント」の答え合わせ
それでは、最後に冒頭の答え合わせです。
恵比寿のとあるロッカーを開けると、秘密のミュージックバーにつながってる。音楽はレコードオンリー。これは人を連れて行きたくなる。 pic.twitter.com/Wg4SHiQeid
— アフロマンス | Afro&Co. (@afromance) October 28, 2021
「ロッカーを開けたらバーにつながっているという部分」
この投稿を見て、どこが気になるポイントかわかりましたか?
あくまで私見ですが、1つは「1人の体験のストーリー」として書いている点です。
「恵比寿のとあるロッカーを開けると、秘密のミュージックバーにつながっている」
これを一般的な説明調にすると、
「ドアがロッカーになっている隠れ家的なミュージックバー」という表現になります。
同じことを言っているけど、1人の体験の視点なのか、単純な説明なのかで、受け取り方が変わってきませんか?
そして、もう1つは、投稿の中で「あえて見せない」部分があること。
実は、店名もURLもあえて書きませんでした。
書かないことで、「秘密のバー」が強調され、「気になる」「知りたい」となり、個別にたくさんの連絡が来たのでは? と思っています。
お店自体というより、投稿の内容なので、少し意地悪なクイズだったかもしれません(笑)一方で、これくらいの表現やコミュニケーションの違いでも、伝わり方やワクワク感が変わってくるので、「あえて見せない」という選択肢、そして1人の体験者のストーリーとして考えるという視点を参考にしてみてください。
P.S.
ちなみに、どこのバーか知りたくなった人は、先ほどの投稿にリプライでぶら下げています。もちろん、ここに店名やURLを載せるような野暮なことはしませんよ。
いかがだったでしょうか?
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