投票率を上げるために20代、30代ができること 「社会規範」が大切?

投票率を上げるために20代、30代ができること 「社会規範」が大切?

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大阪大学教授で経済学を専門とする大竹文雄さんが、行動経済学を通じて若手ビジネスパーソンの次の行動につながる考え方やモノの見方を伝えます。今回のテーマは「選挙の投票率」についてです。

投票率が低いのは自然なこと? 損得計算だけで考える

2日後に迫った衆議院選挙の投開票日。

今回の投票率にも注目が集まるが、最近の日本の国政選挙の投票率は低下傾向にある。

衆議院が解散され、万歳する議員たち=2021年10月14日、朝日新聞社
衆議院が解散され、万歳する議員たち=2021年10月14日、朝日新聞社

2017年10月の衆議院選挙の投票率は53.68%。戦後から1990年まではほぼ70%前後を維持してきたので、投票率が低いのは日本人の国民性を反映しているわけではない。

ではなぜ、これほど投票率が下がってしまったのだろうか。

 

実際のところ、狭い意味の合理性を前提にすると、投票率が低いことは自然なのだ。有権者にとって、自分1人の投票行為が全体の投票結果に与える影響は、多くの投票者がいることを考えるとほとんどゼロである。

10人しか投票者がいない場合は、自分の1票で当選者が誰になるかを左右できるかもしれないが、数千人から数万人の投票者がいる選挙区では自分の1票が当選者に影響を与える程度はほとんどゼロと言える。

選挙結果が政策に影響を与え、それが有権者に大きな影響を与えるものであったとしても、1人の投票が与える影響がほとんどゼロであれば、選挙から得られる便益も損失もほとんどゼロになる。

仮に、選挙の結果が自分の生活に与える影響が数百万円という非常に大きい額であったとしても、自分の1票が政策を変える効果がほぼゼロであれば、投票することで自分の利害を変える効果は、「数百万円×ゼロ=ゼロ円」となってしまうからだ。

期日前投票所。新型コロナ対策で、鉛筆の回収箱(右)が設置されている=2021年10月20日、朝日新聞社
期日前投票所。新型コロナ対策で、鉛筆の回収箱(右)が設置されている=2021年10月20日、朝日新聞社

それに対して、投票に行くための時間、候補者の政策について考える時間にかかる費用は無視できない。単純な計算で、それぞれの有権者に対して選挙の損得計算をすれば、投票することは損失の方が大きい。

もし有権者がこのような損得計算だけで行動するならば、棄権するはずだ。投票するという行動をとる場合でも、候補者の情報を集めるということに時間をかけずに投票することになる。

このような有権者の行動は、「合理的無知」と呼ばれている。合理的無知が蔓延(まんえん)してしまうと、政治家や政党は、自分たちに都合のいい政策や自分たちの利益が大きくなるような政策を取ることになる。なぜなら、有権者の合理的無知の結果、政治家の行動や政策について、選挙での抑制が利かなくなるからだ。

 

投票率を上げるためには……

それでは、投票率を引き上げるにはどうすればいいだろうか。

さきほどの「合理性」をもとにした投票行動を前提にすれば、投票率が低い状況だと知らされたときのほうが、人は投票するようになるはずだ。

なぜなら、投票率が低いときの方が、投票率が高いときに投票するよりも、1票の価値がわずかながらも大きくなるからだ。

 

イエール大学で政治学を専門とするガーバー氏とハーバード大学で行動科学を専門とするロジャース氏は、

「今度の選挙では投票率が低くなりそうだ」

という予測を聞いた場合と

「今度の選挙では投票率が高くなりそうだ」

という予測を聞いた場合とで、人々の投票意欲がどう異なるかを、2つの投票の前に調査した。

getty images
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結果はどちらの選挙の場合も、「今度の選挙では投票率が高くなりそうだ」という予測を聞いた場合の方が人々の投票意欲が高くなっていた。

「合理性」をもとにした棄権であれば、投票率が高くなるという予想を知らされたときの棄権の方が多くなるはずだ。

なぜなら、さきほど述べたように、投票数が増えることで、自分の投票行為が全体の投票結果に与える影響が小さくなると考えるからである。

しかし実際には、「多くの人が投票する」と知らされたときのほうが投票意欲が高まるのだ。これは、私たちが「周囲の人の行動に影響されて行動する」という特性が、投票行動でも見られるということになる。

「投票はみんながするもの」という社会規範が成り立っているならば、私たちは投票にいく。つまり、多数派が投票する(投票しそうだ)という情報が得られたなら、私たちは投票するのだ。

 

私たちの行動が新しい社会規範を生む

昭和の頃に投票率が高かったのは、「投票はみんながするもの」という社会規範があったのだと考えられる。それが、時代を経て、「投票はみんながするもの」という社会規範が崩れ始めたのかもしれない。

特に、20代、30代の投票率は50%以下のため、投票に行かない人たちが多数派になっている。特に、20代の投票率は30%台前半にまでなっている。

投票に行かない人が多数派になった社会規範を変えるのは難しいかもしれない。しかし、「過半数が投票しそうだ」という予想をみんなが持てば、それが社会規範になって、より多くの人が投票にいくことになる。それが社会規範の影響力だ。

スケートボード女子パークの表彰式でメダルを持つ(左から)銀メダルの開心那選手、金メダルの四十住さくら選手、銅メダルのスカイ・ブラウン選手。マスクをつけて表彰式に臨んだ=2021年8月4日、有明アーバンスポーツパーク、朝日新聞社
スケートボード女子パークの表彰式でメダルを持つ(左から)銀メダルの開心那選手、金メダルの四十住さくら選手、銅メダルのスカイ・ブラウン選手。マスクをつけて表彰式に臨んだ=2021年8月4日、有明アーバンスポーツパーク、朝日新聞社

新型コロナウイルスの感染が拡大して、今ではマスクをすることが日本では新しい社会規範になった。10月になって感染が落ち着いてきても、マスクをするという社会規範はなかなか崩れない。

また、アルコールで手指を消毒することも社会規範になった。新型コロナ感染症の拡大初期には、アルコールで手指消毒をする人は少数派だったが、すぐに社会規範になっていった。

期日前投票所。新型コロナ対策で、消毒液と使用済み鉛筆の回収箱が設けられている=2021年10月20日、朝日新聞社
期日前投票所。新型コロナ対策で、消毒液と使用済み鉛筆の回収箱が設けられている=2021年10月20日、朝日新聞社

私たちには、周囲の人の行動をみて、それと同じような行動を取るという特性がある。

ということは、私たち自身がする行動が社会規範となって周囲の人に影響を与える。マスクをすることも、アルコールで手指消毒をすることも、最初に始めた人がいて、その行動を見た人が広めていって社会規範になったのだ。

投票でも同じことが生じるはずだ。自分が投票に行くつもりだと周囲の人や友人に伝えれば、それがあっという間に社会規範になっていく。

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