FIREムーブメントの背景にあるものと、FIRE達成者の責務とは

FIREムーブメントの背景にあるものと、FIRE達成者の責務とは

ライフ・マネー

三菱系の大手企業に勤めながら徹底した倹約と資産運用を続け、30歳でFIRE(Financial Independence, Retire Early=経済的自立と早期退職)を実現した穂高唯希さん。FIREという生き方の魅力やFIREがいま注目される理由、FIREと従来の早期退職の違い、FIREの目指し方などについて、実体験を元にお伝えします。

「今日より明日がよくなる」という確信を持てた時代

こんにちは、穂高 唯希です。

 

本コラム第1回では自己紹介と経済的自由について、第2回ではFIREムーブメントの概念と働くことや社会的背景との関連性について記しました。

今回は、FIREムーブメントの背後にある時代背景や価値観の変化、日本の労働環境やロールモデルとの関連性について考察したいと思います。

「FIREとは、経済的自由を得て人生の自由度を上げること」と筆者は話す=筆者提供
「FIREとは、経済的自由を得て人生の自由度を上げること」と筆者は話す=筆者提供

日本は時代とともに大きく変わってきました。

戦後復興期から高度経済成長期、そしてバブル崩壊に至るまでの時期には、書物や先人の意見を聞く限り、1つの共通点が見いだせます。

 

それは「今日より明日、明日より明後日がよくなる」という確信を今より持ちやすかった時代だということです。

「今日より明日、明日より明後日がよくなる」という部分は、FIREに限らず、人生全体の大きな原動力になり得るキーフレーズだと私は考えています。

後ほど詳しく述べます。

高度経済成長期の1968(昭和43)年7月、デパートのショールームでカラーテレビに見入る人々。当時、カー、カラーテレビ、クーラーの「3C」の売れ行きが急伸していた=東京都新宿区、朝日新聞社
高度経済成長期の1968(昭和43)年7月、デパートのショールームでカラーテレビに見入る人々。当時、カー、カラーテレビ、クーラーの「3C」の売れ行きが急伸していた=東京都新宿区、朝日新聞社

働けば働くほど賃金が増え、買えるものも増え、物質的な欠乏から豊かさを感じるようになり、生活家電の普及などにより目に見えて日常生活が向上していく。

公害などの弊害を抱えつつも、モノを作れば作るほど売れ、生産と消費が一体となって規模を拡大していく――。

事実、経済規模の物差しとされてきたGDP(国内総生産)は時を経るごとに成長し、その数字に伴って人々の「実感としての豊かさ」も向上してきたのでしょう。

 

現代はどうでしょうか。

私は同世代の人々に「5億円あったら何を買いますか」と聞いたことがあります。

返ってきた答えは、少し良い家、外食、キャンプ用品、ゲーム、エアコンなどでした。

どれも5億円もなくとも買えるものばかりです。

彼らは、むしろ自由な時間がほしいと言うのです。

 

この答えには、今の世相が凝縮されている気がします。

もはやそれほどまでに「金銭を消費して得たいモノが飽和してきている」のではないでしょうか。

いわば「お金で得られる幸福の価値が、以前と比べて相対的に下がっている」とも言えるでしょう。

ましてや今は主にアメリカ発(日本でないことが残念ですが)のITサービスなどによって、あまり金銭をかけずとも、映画や物流などのサービスを享受できてしまいます。

川崎市高津区にあるアマゾンジャパンの物流拠点。注文した商品が翌日届くことが、今や当たり前になった=2020年、朝日新聞社
川崎市高津区にあるアマゾンジャパンの物流拠点。注文した商品が翌日届くことが、今や当たり前になった=2020年、朝日新聞社

ドイツの友人によれば、今ドイツの若者の間で流行(はや)っている娯楽は「友人や恋人とオーガニックな食材で弁当を作って、自然豊かな公園で一緒に食べること」だそうです。

先進国の一部で共通して見られる象徴的な事象ではないでしょうか。

今後は物質主義への反動で自然回帰が進む、と私は考えています。

人々の物質的な需要が飽和した結果、「本来なくてもいいけど、あったら便利なもの」が世の中に多く出回るようになったのです。

 

ブルーライト用目薬とGDPに覚えた違和感

同時に、GDPという物差しにも、以前ほど機能しなくなってきている面を見いだせます。

私が最初にGDPに違和感を持ったのは、ブルーライト用の目薬が登場した2017年ごろです。

 

GDPは工場で作ったモノやお店で提供されるサービスなどの付加価値の総和です。

このため、ブルーライト用目薬を生産して消費する一連の経済行動は、GDPが増える要素になるでしょう。

2020年7~9月期のGDPについて説明する西村康稔経済再生相(当時)=2020年、東京都千代田区、朝日新聞社
2020年7~9月期のGDPについて説明する西村康稔経済再生相(当時)=2020年、東京都千代田区、朝日新聞社

しかし、ブルーライト用目薬とは、果たして本来必要だったものでしょうか?

パソコンやタブレット、スマートフォンなどの登場により、本来人間に起こり得なかった水準での眼精疲労が副作用として生じ、需要が喚起された商品です。

つまり、人間に悪影響が生じるサービスを作って、その対策として新たに商品を開発すれば、それはGDPが増える要因になってしまうのです。

 

私は当時、この目薬が、GDPと人間の幸福度が直接的に関連しないことを示す象徴的な商品のように感じました。

私たちは今、このような側面がある時代に生きている、ということを認識しておきたいところです。

 

ニセコに広がる別世界、トレンドは「自然回帰」へ

ここまでは物質的な側面の変遷に焦点を当てました。

次に、働き方の変遷と日本の労働市場、労働環境に焦点を当ててみたいと思います。

 

FIREを輝かしい光とするならば、半面にある闇にも焦点を当てる必要があるでしょう。

日本が抱える労働市場の構造的な歪(ゆが)みや会社組織における生きづらさ、そして冒頭の「今日より明日、明日より明後日がよくなる」という確信を一般的に持ちづらい社会になってきたこと――。

これらがFIREムーブメントの背景にあると思えてなりません。

 

目を輝かせていた新入社員。

いつからかその輝きが濁っていくさまを目にしたことがあります。

「大人になった」「社会人になった」と言ってしまえばそれまでなのでしょうが、それだけではないと思います。

減点主義の組織の中では、いつからか「ミスをしないように」、「悪目立ちしないように」、「減点されないように」、「真っ当なことであっても異議を唱えて目をつけられるぐらいなら、たとえ正しいことであっても黙っておこう」、そんな思いから人は殻に閉じこもってしまうのかもしれません。

入社式で新入社員を前にあいさつする西日本鉄道の林田浩一社長=2021年、福岡市博多区、朝日新聞社
入社式で新入社員を前にあいさつする西日本鉄道の林田浩一社長=2021年、福岡市博多区、朝日新聞社

そもそも「社会人として」というフレーズを耳にすることがありますが、社会人って何でしょう。

どんな定義で誰が決めたのでしょう。

あいまいな言葉です。

社会人である前にひとりの人間です。

 

先日、英字新聞の取材を受けました。

その記事には冒頭に ”When he was 30, Yuiki Hotaka bid farewell to Japan’s notoriously long working hours and crowded commutes forever.”(編集部注:穂高唯希氏は30歳の時、日本の悪名高き長時間労働と満員電車での通勤に永遠の別れを告げた)とありました。

主に英語圏の人々向けに書かれるので、海外から見た日本の印象が如実に表れた書き出しと言えます。

1980(昭和55)年、阪急電鉄京都本線の茨木市駅の様子。朝の通勤ラッシュの時間帯、自力で乗り切れない乗客を車両に押し込む駅員ら=大阪府茨木市、朝日新聞社
1980(昭和55)年、阪急電鉄京都本線の茨木市駅の様子。朝の通勤ラッシュの時間帯、自力で乗り切れない乗客を車両に押し込む駅員ら=大阪府茨木市、朝日新聞社

東京一極集中が生み出す満員電車は、嫌いな人はいても好きな人は稀(まれ)なはずです。

果断に決断した企業もあります。

世界のお茶専門店「ルピシア」は、東京から自然豊かな北海道のニセコに本社を移しました。

 

ニセコは私も時に訪ねるのですが、東京とはまったく別の世界が広がっています。

雄大とも言える時間の流れ、自然への畏敬(いけい)、洗練さ。

その地の環境が、その地に住む人間をそうさせるのでしょう。

現代のトレンドは間違いなく「自然回帰」になると私は確信しています。

ニセコの風景と羊蹄山。「こういう場所は、人間の心を穏やかにします」と筆者は言う=筆者提供
ニセコの風景と羊蹄山。「こういう場所は、人間の心を穏やかにします」と筆者は言う=筆者提供

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