宇宙を自分の仕事に。ミレニアル世代はなぜ宇宙ビジネスに惹かれたか

宇宙を自分の仕事に。ミレニアル世代はなぜ宇宙ビジネスに惹かれたか

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宇宙ビジネスの産業発展を支える一般社団法人「SPACETIDE」の共同設立者・理事である佐藤将史さんが、リアルな宇宙ビジネスの“いま”を伝えます。第6回は、急成長するベンチャーのCEOとして活躍するミレニアル世代の2人を紹介します。

GITAIとSpace BD、気鋭のベンチャーの横顔とは

前回(第5回コラム)は、日本の宇宙ベンチャーにはエンジニアやビジネスパーソンが出身業界や国籍を問わず集まり、多様性に富んだチームを構成していることを伝えた。

宇宙ベンチャーに集まる人々はどのような人で、どのような仕事をしているのか――。

読者の皆さんには想像のつかない話かもしれないが、逆に興味をそそるだろうか。

 

今回は、具体例として2社のベンチャーを紹介したい。

いずれも2015年頃ごろの「宇宙ビジネスの夜明け」(第4回コラム参照)の後に創業された気鋭の企業だ。

覗(のぞ)いてみると、20代後半~30代という、bizble読者層とも近い“ミレニアル世代”が数多く奮闘する姿が見えてくるかもしれない。

 

博士が7割「ロボット界のスーパースター集団」

2016年創業のGITAI Japan(ギタイジャパン=東京都大田区。以下GITAI)。

宇宙で汎用的な作業が可能な半自律・半遠隔ロボットを開発している。

人間の手の動きや力加減など、精密な動作を再現する高精度なロボティクスが売りだ。

GITAIは創業5年にしてNASAと契約し、ISSでのロボット実験を開始するなど、破竹の勢いでビジョンの実現へと進む。

 

GITAIの特徴は「ロボット界のスーパースター集団」と中ノ瀬翔CEOが評する、天才エンジニアたちだ。

中でも博士号を持った人材が多い。

GITAIのメンバーたち。最後列中央が中ノ瀬翔CEO=GITAI提供
GITAIのメンバーたち。最後列中央が中ノ瀬翔CEO=GITAI提供

経済産業省の調査によれば、大学発ベンチャーの中で、航空宇宙ベンチャーの従業員に占める博士号取得者の割合は21%。

他分野のベンチャーと比べて比較的高い割合だが、大半を占める19%は航空宇宙分野で博士号を取得している。

異分野での博士号取得者となると、わずか2%で、全ての分野で最も低い。

GITAIは大学発ベンチャーではないが、ロボット系の博士が社員の7割を占めており、「尖(とが)った」チームと言えよう。

大学発ベンチャーを分野別に見ると、航空宇宙ベンチャーの従業員で博士号を持っているのは21%。GITAIの博士号取得者の多さが際立つ=経産省調査より筆者作成
大学発ベンチャーを分野別に見ると、航空宇宙ベンチャーの従業員で博士号を持っているのは21%。GITAIの博士号取得者の多さが際立つ=経産省調査より筆者作成

創業者の中ノ瀬氏は現在34歳。

ミレニアル世代ど真ん中だ。

インドでITベンチャーを起業・売却したというユニークなバックグラウンドを持つ。

中ノ瀬氏が次のステップとして目をつけたのが、ロボティクスだった。

 

実はロボットの宇宙利用は当初からあったアイデアではないという。

「汎用性が高い自律ロボットで世の中を変えたい」。

様々な業界をヒアリングしていく中で、最も市場性を感じたのが宇宙分野だった。

 

ロボットの活用で宇宙飛行士の業務を一部代替できれば、1時間当たり13万ドルとも言われる業務コストを大幅に下げることができる。

ロボットによる安価で安全な宇宙利用の実現。

そのビジネスインパクトに目をつけた。

「宇宙が好き」といった宇宙前提のアプローチではなく、あくまでビジネスニーズの大きさから判断したのだ。

 

低コストかつ高性能なロボットの開発――。

そんな難題に挑む上で、中ノ瀬氏が考えたのが「全てを内製化して安くする。ロボットをゼロから作り切れるスーパースターを5人集める」という構想だ。

東京大学の情報システム工学研究室(JSK)出身者を中心にヘッドハントを行い、核となる最初の5人が集まると、今度は「スターがスターを呼び込む」(中ノ瀬氏)ように、あの人がいるなら自分も、と門を叩くエンジニアが集まってきた。

今ではNASAも一目置くチームとなった。

アメリカで実施した模擬ISS(国際宇宙ステーション)環境でのロボットアームの実験=GITAI提供
アメリカで実施した模擬ISS(国際宇宙ステーション)環境でのロボットアームの実験=GITAI提供

中ノ瀬氏は法学部出身。

しかし「ビジネスに文系も理系もない」と強調する。

自身がプログラミングを得意とするエンジニアとしての側面を持ち、エンジニアに対する理解とリスペクトが非常に強い。

 

博士中心のメンバー構成は、日本の常識への大きな挑戦でもある。

「日本社会では博士の存在が尊重されていない」(中ノ瀬氏)。

特に産業界ではその風潮が根強く、いわゆる「ノンアカデミック・キャリア」(研究者以外の道)に進む博士は日本では少ない。

GITAIはそれに異を唱えるかのようなチーム編成で、高いパフォーマンスを発揮している。

 

「優秀な人は学歴や学位に関係なく活躍できる」と中ノ瀬氏は前置きしつつ、「博士号を持っているということは、ある問題解決において“人類の限界”を突破して、更新した経験を持っていることの証明」と博士を評価する。

 

稀有(けう)な能力を持つ人材の力を引き出し、高く評価する――。

中ノ瀬氏は世界レベルのチームづくりの重要な点を説く。

「意思決定プロセスの全てに技術者の考えが反映された、働きやすい制度や環境を作り込むことが大事。例えばオフィス選びなら、火花が散る開発をしても大丈夫な場所を選ぶ」という。

また、エンジニアは十分な経済的リターンを得るべきという考えから「徹底的にインセンティブを重視する。例外なく全てのエンジニアにストックオプションを付与している」(中ノ瀬氏)。

 

GITAIは最近、月面探査車の開発に着手すると発表した。

2030年代には月面が宇宙ビジネスの中心になることを見据えてのことだ。

GITAIは常にマーケットの先を読みながら、世界最先端の技術力に磨きをかける。

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