なぜZ世代は「副業」や「起業」、「早期退職」に憧れる? デジタルが変えた「職業観」とは

なぜZ世代は「副業」や「起業」、「早期退職」に憧れる? デジタルが変えた「職業観」とは

ビジネス

若い世代の「価値観」は新たな環境の変化でどんどん進化を繰り返すといわれます。「おひとりさま」や「草食系男子」「年の差婚」などの言葉を世に広めたマーケティングライターの牛窪恵さんが、「ゆとり世代(さとり世代)」、「Z世代」の考え方、ものの見方について読み解きます。

マーケティングライターで、世代・トレンド評論家の牛窪恵(うしくぼ・めぐみ)です。

前回、「なぜゆとり世代は「コスパ」で、Z世代は「タムパ」なのか?」にたくさんの反響を頂き、ありがとうございました。

今回は、「次回扱ってほしいテーマ」として多くご意見をいただいた、Z世代とゆとり世代の「働き方」について、私なりの観点からお伝えしたいと思います。

 

会社に「しがみつかない」 Z世代の職業観は?

2021年9月、サントリーホールディングスの新浪剛史社長は、経済同友会のセミナーで「45歳定年制」の推奨ともとれる発言をし、物議をかもしました。

サントリーホールディングスの新浪剛史社長=朝日新聞社
サントリーホールディングスの新浪剛史社長=朝日新聞社

具体的には、企業は今後45歳ぐらいを目安とした定年制の導入を視野に入れるべきだ、そうすることで「会社に頼らず、学び続けよう」とする“良い人材”が育つだろう、といった内容でした。


あくまでも「リストラ(解雇)」が前提ではなく、定年の年齢前倒しも含め、さまざまな選択が可能な仕組みづくりを検討すべきだ、との趣旨だったといいます。


ですが、この発言の直後、取材したZ世代(私の定義では現17~26歳)からは、次のような声があがりました。

「僕ら若い世代より、むしろ上の世代のほうが、よっぽど(会社に)『しがみついてる感』が強いんですけど」

「そもそも今の会社が、いつまであるか分からない。私たちは最初から、50歳、60歳過ぎてまで働こうとは思ってません」


とくに後者は、Z世代からよく聞く声です。


最近は、アメリカやヨーロッパに広がった「FIRE(ファイア/Financial Independence, Retire Early)」と呼ばれる考え方が、日本の若者にも注目されています。

定年を待たず、早期リタイアでサラリーマン生活を終え、資産運用などで収益を得て堅実に生活していく、という生き方です。


こうしたZ世代の声を、上の世代(おもに現50代以上)に伝えると、決まって「生意気な」や、「そんなこと(早期リタイア)無理に決まっている」、あるいは「俺らは『しがみついて』いるんじゃない、会社に『恩返し(あるいは『尽くす』)』しているだけ」などと、反論もあがります。

確かに、50代以上の多くが入社したバブル期まで、社会では「終身雇用」が当たり前で、若いころは転職そのものが珍しかったとされています。

この傾向は、いまも大きくは変わらないようです。


2019年実施の調査結果(【表1】/ジャストシステム調査)を見ても、20~50代の働く人たちのうち、年代が最も上で、本来なら転職経験が多いはずの50代で「これまでに転職活動をしたことがない」の回答が一番多く、45.8%が「活動経験なし」と答えました。


一方、20代での同回答は39.3%と4割弱。逆に、まだ若い20代で6割強にすでに転職活動の経験があり、実際に転職した人も約4割にのぼっていたのです。

ただ、こうした働き方を「定年制」や転職の視点から深堀りしようとすると、職種や業種、就労形態のほか、新卒一括採用や雇用の流動性など、従来のさまざまな雇用システムとも絡み合い、議論が複雑になってしまいます。


そこで今回は、Z世代やゆとり世代の働き方を、あえてシンプルに「デジタル」との関わりから考えてみましょう。

 

デジタルネイティブ世代の理想像は「副業からも収入」

前回、ゆとり世代(私の定義で現27~33歳)とZ世代は「デジタルネイティブ」で、とくにZ世代は「スマホネイティブ」「SNSネイティブ」であるとお伝えしました。

このことが、彼ら若い世代の働き方への意識を大きく変えた可能性があります。


1つ目が、「副業」に対する意識です。

日本では2021年春、松井証券が「理想の働き方」などを聞いた調査が、話題を集めました。


調査では、「コロナ禍を経て、働き方の意識に変化があったか」との問いに、「(どちらかと言えば)ある」と答えた人が、ミレニアル世代(同社の定義では、社会人4~18年目)で5割弱(49.5%)、Z世代(同1~3年目)では5割超(51.6%)もいました。

とくにZ世代では、「副業」を理想とする傾向が顕著で、1つ上のミレニアル世代(ゆとり世代を含む)と比べても、さらに副業願望が強いことが分かりました【表2】。

ゆえに、私はZ世代を、本業と副業でリスクに備える「二刀流世代」とも呼んでいます。


一方で、冒頭で説明した定年についての考え方につながる「終身雇用」を理想とする若者は、Z世代では約5人に1人、ミレニアル世代でも約3人に1人しかいませんでした。

実は海外でも、少し前から似た傾向にあったのです。

2000年代に入り、ヨーロッパやアメリカで盛んになったのは、「インターネット(デジタル)を媒介にしたビジネスの普及で、『副業』に従事する労働者の割合が増えたのではないか」といった指摘でした。


そこで2016年、民間の人材サービス企業「CareerBuilder社」は、ネット時代ならではの働き方が、若者の間で増えていった様子を明らかにしました。

具体的には、1980 年代から 2000 年代初頭生まれの間で、約3割(29%)が、おもに単発の仕事(Gig Work)を「副業」としておこなっていることが分かったとのこと。

ちなみに、この調査対象には、私が定義する「ゆとり世代」「Z世代」も含まれます。


副業の業種はおもに、コンサルタントやアンケート調査員、フリーライターやブロガー、ウェブデザイナー、フォトグラファーや子守り(保育)などであったそうです(労働政策研究・研修機構「諸外国における副業・兼業の実態調査」〈2018年〉)。

確かに、いずれもデジタルを通じて仕事の受発注がしやすい分野ですよね。

 

海外のZ世代、65%が「起業」に意欲

若い世代の働き方とデジタルの関係、2つ目が「起業」願望です。

日本の若者に調査した、先の【表2】で「理想の働き方」を見ても、起業に近い「お金を貯めて独立」の回答は、ミレニアル世代よりZ世代のほうがさらに多い。

こうしたZ世代の志向を、世界で音楽ストリーミング事業を展開するSpotifyは、「DIYメンタリティ」と表現しました。

すなわちZ世代には、大学や企業に頼らず、デジタルなどを駆使して自分で道を切り開く「do it yourself = DIY」の精神が醸成されている、というのです。


もととなった調査の一つが、2019年から2020年にかけて、Spotifyがおもにアメリカやイギリス、オーストラリア、ドイツ、インド、ブラジルなどに住む若者に対して行なった、量的・質的調査です。

定量調査の対象は、「Z世代(同社の定義で、現16〜26歳)」と、「ミレニアル世代(同・現27〜41歳)」でした。

getty images
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この調査では、なんと世界のZ世代の65%が、「すでに自身のビジネスを始めた(始めるつもりだ)」と回答しました。

一方で、同じ世代の半数以上が、「自分たちより『上の世代』の行動や選択は、変化の激しい時代に当てにならない」と見ており、2020年夏はコロナ禍で、さらにその傾向が強まっていたのです。


上の世代には、なんともショックな結果ですが、さらにZ世代の53%は、「大学や企業などの『大規模組織』に頼るのは危険」だとも考えていたそうです。


2019年、アメリカの投資サービス企業「TD Ameritrade」の調査でも、高校卒業後に「4年制大学ではない」進路を検討するZ世代が、89%にも及びました。

彼らのうち最も多く(46%)が関心を寄せたのが、「オンラインコースの受講」。ここでも、上世代の前例に頼らず、自分のペースや価値観で学びたいとする彼らの志向が、デジタル社会と少なからず関わっていたのです。

 

「SDGs」と「SNS」が変えたZ世代の職業観とは?

これら海外の若者を対象とした調査は、経済格差(学費問題を含む)や人種問題など、日本とは違った条件のもとで進められた前提ですが、一方でデジタルの進化の過程は、日本と大きくは変わらないはずです。


そういえば、コロナ禍で私が出会った日本のZ世代にも、似た傾向がありました。

拙著「若者たちのニューノーマル」で取材した、名門私立女子高に通う高校2年生は、「大学でなく美容専門学校に進学、あるいは専門のオンライン動画でコスメに関するプロフェッショナルな勉強をしてから起業したい」と話しました。

また、別の大学3年生の女性は、自然由来のコスメブランド「ザ・ボディショップ」を立ち上げた女性起業家のアニータ・ロディックに憧れ、「SDGs(持続可能な開発目標)発想」のブランドを立ち上げたい、と夢見ていました。

SDGsの17の目標=朝日新聞社
SDGsの17の目標=朝日新聞社

一方、国立大学2年生の男性は、「ユーチューバーになりたい」と話す半面、「ユーチューバーという職種を目指しているわけではない」と断言しました。

彼が憧れるのは、ベトナム製の「草ストロー」で起業した、東京農業大学3年生の大久保夏斗さん。

彼のように、自分も環境や貧困に配慮した商材で起業したい。その際、仲間を募るうえで『動画』が効果的だから、インスタグラムやTikTok、ユーチューブを活用したいというのです。

このほか、起業に際して必要となる仲間や資金集めは、「SNSコミュニティを活かしたい」、「ウェブ上の『クラファン(クラウドファンディング)』で」と話す若者が目立ちました。


以前、ゆとり世代への取材では、デジタル(AIを含む)による効率的な働き方や公正な人事評価を求める声が多かったのですが、Z世代はデジタルツールを使って、従来当たり前とされてきた働き方の“枠組み”を壊し、新時代の副業やアーリーリタイア、あるいは遠隔で働くリモートワークなど、まったく新しい働き方を追求していきたい、といったイメージが強いようです。

 

日本も「定年制は、何歳を目安にするか」といった議論に腐心するより、そろそろ彼らZ世代が「デジタル」によってデザインしていこうとしているような、多様でイノベーティブな働き方の議論に、軸足を移すべきではないでしょうか。

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