損害保険などを手がけるSOMPOホールディングスの子会社、プライムアシスタンス(東京都中野区)が、視覚に障害のある人たちの「目」のかわりとなるサービスを新規事業として検討しています。顧客の「困り事」にきめ細かく向き合うノウハウを、社会課題の解決にも生かしていく狙いです。障害者の暮らしを豊かにする取り組みをビジネスチャンスにつなげる挑戦に、当事者たちは手応えを感じ始めています。
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目が見えなくても自信を持って「次の一歩」へ
「ちゃんと口紅が塗れているかが不安」「目当てのお店の前まで来たはずだけど、入り口がわからない」――。
プライムアシスタンスによると、視覚に障害のある人たちは日々、こんな課題に直面しているといいます。
せっかく前向きな気持ちで散歩や買い物、友人に会うために外出を試みても、通い慣れた道以外を気の向くままに歩くことは躊躇してしまう実態があるようです。
迷ったときの「次の一歩」に自信が持てるようになれば、明るい気持ちで外出ができ、もっと社会とかかわりたいと感じたりできるのではないか――。
プライムアシスタンスは親会社のSOMPOホールディングスとも連携し、必要なときに、本人にかわって目の前の情報を提供するサービスの検討を始めました。
スマートフォンで撮影した目の前の映像をGPS(全地球測位システム)とも連携して解析し、オペレーターが場所の詳細や周囲の状況を確認できるアプリを考案。
アプリを起動すると、プライムアシスタンスのオペレーターが「お困り事」を電話でサポートし、一緒に解決していくサービスを開発しました。
「私の世界は広がる」 寄せられた喜びの声
プライムアシスタンスは視覚障害者の団体や日本点字図書館などとも連携し、今年7月から首都圏や近畿圏で生活している20~60代の15人の視覚障害者の方に実際に使ってもらい、使い勝手を調べました。
「ふらっと外出することなんてあきらめていたけれど、これで私の世界は広がる」
「他人に頼ることの多い現実がイヤだったけれど、あきらめていた『自分』を取り戻すことができる」
実証実験に協力してくれた参加者からは次々と笑顔で喜ぶ声が寄せられたそうです。
実際に障害者の方に聞いてみると、電車に乗る前後の駅ナカや店舗の中で、次の一歩に迷ったり、戸惑ってしまったりすることが多いという実態も見えてきました。
プライムアシスタンスは今後、鉄道会社や百貨店などとも連携し、駅ナカや店舗内で必要とされるサービスを拡充していく検討していくそうです。
商機は、行政サービスの「補完」にあった?
視覚に障害がある人の自立や外出を支えるサービスは、ほかにはないのでしょうか。
厚生労働省は2011年、代読やお出かけ、買い物などに付き添い、一緒に歩いたり困ったときにサポートをしたりする「同行援護」という事業を始めました。
窓口となる市町村の障害者担当課を通じて申請し、資格を持つ「視覚障害者ガイドヘルパー」を派遣してもらう仕組みです。
ところが、ヘルパーの数が十分でなかったり、自治体によっては1週間以上前から予約が必要だったり、仕事や通学では使えないなど使い勝手が課題になっているそうです。
プライムアシスタンスは、そこに新たなビジネスの可能性を感じました。
25人を超える社員がガイドヘルパーの資格を取得し、実際に行政サービスにもかかわって視覚に障害がある人に寄り添う経験を重ねました。
その上で、障害者の立場に立つと、どんなことがネックになって外出を躊躇してしまうのかも体感しました。
じかにサービスにかかわったり悩みに触れ合ったりすることで、新規事業を実りあるものにしていければ、という考えに多くの社員が共感したそうです。