クレジットカード手数料、今秋一斉に引き下げか 高還元率カードは「改悪」へ?

クレジットカード手数料、今秋一斉に引き下げか 高還元率カードは「改悪」へ?

ライフ・マネー

かつて“キャッシュレス後進国”と言われた日本。近年はクレジットカードや電子マネーの利用が進み、「どのカードがお得?」「ポイント還元率は?」といった会話も日常の風景になりました。業界を30年以上取材してきた岩田昭男さんが、“キャッシュレス狂騒曲”を冷静に見つめ、利点や問題点を分析します。

筆者は今秋、クレジットカード各社が手数料引き下げに動くとみています。

後述しますが、QRコード決済最大手のPayPayが8月、異例の安さとなる決済手数料を発表したためです。

キャッシュレス決済という同じ土俵で競合するクレジットカード各社は、速やかに追随せざるを得ないはずです。

今回は手数料の現状と今後の展望について解説します。

破格に高い日本の手数料率、経産省は不満

キャッシュレス決済時のポイント還元率などが記されたポスターを店頭に貼る世耕弘成経済産業相(右、当時)=2019年8月、東京都杉並区、朝日新聞社
キャッシュレス決済時のポイント還元率などが記されたポスターを店頭に貼る世耕弘成経済産業相(右、当時)=2019年8月、東京都杉並区、朝日新聞社

キャッシュレス決済のポイント還元事業は、2019年10月の消費増税に合わせて始まり、2020年6月まで続きました。

キャッシュレスで決済したら、支払額の最大5%分のポイントが還元されるという内容で、国(経済産業省)は総事業費約7753億円を投じました。

しかし、経産省は思ったほどクレジットカードなどの普及が進まなかったと見ています。

その原因の1つがクレジットカードの手数料の高止まりです。

 

加盟店がカード会社に支払う手数料率は、世界では1~2%が相場と言われています。

一方、日本では3~7%と破格に高いのです。

コンビニやスーパーなどは3%、キャバクラなどは回収リスクが高いので7%くらいと言われています。

キャッシュレス決済について2021年1月に経産省の検討会がまとめた資料では、「決済手数料の負担が重い」という中小店舗の声が紹介されています。

この高い手数料が国内でのクレジットカードの普及を妨げている、と経産省は見ているのです。

取材に応じるPayPayの中山一郎・最高経営責任者(CEO)。PayPayは2021年8月に「業界最安水準」の手数料を発表した=2019年6月、東京都千代田区、朝日新聞社
取材に応じるPayPayの中山一郎・最高経営責任者(CEO)。PayPayは2021年8月に「業界最安水準」の手数料を発表した=2019年6月、東京都千代田区、朝日新聞社

そこで経産省は、手数料を2〜3%まで早急に引き下げるよう、キャッシュレス決済各社に指導を行っています。

QRコード決済最大手のPayPayは、2021年9月で3年間の手数料無料期間を終え、新たに加盟店手数料を設定することになりました。

8月の発表で、QRコード事業者の平均的な手数料率が3.25%のところ、海外並みかつ業界最安となる1.6~1.98%の手数料率を示して話題になりました。

PayPayは国の圧力に素直に従ったのです。

取材に応じるビザ・ワールドワイド・ジャパンのスティーブン・カーピン社長。ビザは日本で非接触の「タッチ決済」対応カードを急ピッチで増やしている=2019年11月、東京都千代田区、朝日新聞社
取材に応じるビザ・ワールドワイド・ジャパンのスティーブン・カーピン社長。ビザは日本で非接触の「タッチ決済」対応カードを急ピッチで増やしている=2019年11月、東京都千代田区、朝日新聞社

筆者がVISAやマスターカードといった国際ブランドの日本法人幹部に取材したところ、すでに両社とも手数料率を2.7~2.9%まで引き下げることを決めています。

日本のクレジットカード各社が加盟店から徴収する手数料は、国際ブランドとの打ち合わせで決まります。

このため日本のカード会社は、VISAやマスターカードの決めた水準に従わざるを得ないでしょう。

その結果、クレジットカードの手数料率は劇的に下がり、カードを取り巻く環境が大きく変わりそうです。

引き下げなら小売店には朗報、悲しむのは……

例えばこの競争を通じ、手数料が4%から2%に下がったら、一番喜ぶのは全国の小売店でしょう。

少ないコストでキャッシュレス決済を利用できるようになり、クレジットカードやQRコード決済をどんどん導入するでしょう。

全国の主要郵便局でキャッシュレス決済の対応が始まった=2020年2月、東京都千代田区の東京中央郵便局、朝日新聞社
全国の主要郵便局でキャッシュレス決済の対応が始まった=2020年2月、東京都千代田区の東京中央郵便局、朝日新聞社

反対に手数料引き下げで打撃を受けるのは、カード業界、ポイント業界、ポイント愛好者ではないでしょうか。

ポイントと手数料は関係が深いのです。

なぜなら手数料収入をポイントの原資に充てることが多いからです。

 

手数料が高止まりしている間は、カード会社の資金は潤沢です。

このため利用額の1~2%をポイントとして還元しても経営は成り立ったのです。

それゆえ「1%が高還元カードか否かの分水嶺」などと言われてきました。

しかし今後、それでは立ち行かなくなりそうです。

 

手数料引き下げでカード会社の収入が減ると、一般カードの多くが一斉にポイント改定に走り、「1%還元」など好条件のカードはなくなるかもしれません。

0.5%還元がせいぜいで、0.7%還元なら上等とみられるようになるでしょう。

一般カードとゴールドカードで明暗分かれる?

2020年11月に会員数が2100万人を突破した「楽天カード」=以下筆者提供
2020年11月に会員数が2100万人を突破した「楽天カード」=以下筆者提供

すでに改定の動きは始まっています。

楽天カードは高還元カードとして知られ、どこで利用しても100円で1ポイント(1%)貯(た)まります。

しかし2021年6月利用分から、公共料金の場合は500円で1ポイント(0.2%)しか貯まらなくなりました。

今後は楽天カード型の「改悪」が増えるでしょう。

 

以上の通り、一般カードのポイント還元率は秋口から次第に渋いものになりそうです。

一方、元気な勢力もあります。

安定した年会費収入があるため手数料引き下げの影響を受けないゴールドカードたちです。

今後「dカードゴールド」と「ビューゴールドプラスカード」が双璧となる可能性は十分にあります。

税込み11000円の年会費にもかかわらず、2021年4月に会員数800万人を突破した「dカード GOLD」
税込み11000円の年会費にもかかわらず、2021年4月に会員数800万人を突破した「dカード GOLD」

とりわけ「dカードゴールド」のすごさは群を抜いています。

前回コラムでも触れましたが、NTTドコモのスマホ利用料の10%を還元する施策が好評で、2021年4月には会員数が800万人に達しました。

毎年100万人規模で会員を増やし、1人11000円(税込み)の年会費収入だけで毎年100億円規模を積み増しており、お化けカードと言えるでしょう。

また、家族カードを作れば、家族のドコモ利用料にも10%還元が適用され、家族でお得を享受できます。

2021年7月に大幅なリニューアルを行い、一定条件下で異例の高還元率となったJR東日本の「ビューゴールドプラスカード」
2021年7月に大幅なリニューアルを行い、一定条件下で異例の高還元率となったJR東日本の「ビューゴールドプラスカード」

それを見習おうとしているのがJR東日本の「ビューゴールドプラスカード」です。

こちらは乗車券(切符)の購入に対し、10%還元を行います。

さらに、チャージの場合も3.5%還元が適用され、多くのファンを虜(とりこ)にしています。

 

両者に共通するのは、通信と交通という生活インフラを通じ、大規模還元を実現している点です。

多くの人が使うインフラ利用料に対する10%還元ですから、カード選びと利用方法に大きな影響を与えるでしょう。

三井住友カードゴールド(NL)にも注目

コンビニなどでの高還元率に加え、券面にカード番号などの表示がないナンバーレスカード「三井住友カード ゴールド(NL)」
コンビニなどでの高還元率に加え、券面にカード番号などの表示がないナンバーレスカード「三井住友カード ゴールド(NL)」

三井住友カードゴールド(NL=ナンバーレス)も見逃せません。大きく3つの特徴があります。

1.コンビニ大手3チェーンとマクドナルドで最大5%のポイント還元
2.スピーディーなタッチ決済が可能。券面にカード番号や氏名の表示がないため、セキュリティーに優れる
3.年間100万円利用で翌年以降の年会費がずっと無料に

これらに加え、旅行傷害保険や空港ラウンジ利用といったゴールドカードらしい特典も充実しており、ステータス的にも申し分ありません。

 

気になるのは、コンビニでの5%還元をいつまで継続できるかです。

コンビニは景気に左右されやすい業種です。

NTTドコモやJR東日本のように、自分の縄張りで勝負できないのが弱点でしょう。

また、三井住友銀行と三井住友カードで貯まる、SMBCグループ共通のポイント「Vポイント」の行方にも注目です。

 

このように手数料引き下げは各方面に影響を与えます。

自分にとってお得なカードやサービスを上手に選んで使うようにしてください。

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