地方で“食っていく”ために。地域に眠る資産を生かす試行錯誤とこれから

地方で“食っていく”ために。地域に眠る資産を生かす試行錯誤とこれから

キャリア

自然に囲まれたこの市営アパートは、まるで自動の虫取り網。夏の朝、階段や踊り場にはあらゆる虫が転がっている。

コクワガタにコガネムシ、カミキリムシはミヤマとアオスジとノコギリ。カブトムシは毛深く、野性味が強い風貌のものもいる。

虫かごに入れて自宅に持ち込み、にんまりと観察する息子。外でやってと叫ぶ妻。

きょうも何かがいないかと、キョロキョロしながら下るのがお決まりになった、この階段。

我が家の虫かごは、また増えた。

「地方創生」「東京一極集中の是正」――。政府の旗振りの下、こうした政策が進められてきました。コロナ禍でリモートワークが広まったことも追い風に、地方移住に注目が集まっています。地方の現状はどうなっているのか。東京にいては見えてこなかった課題とは何なのか。この春から、朝日新聞記者を辞めて地元・岐阜で地域おこしに携わる34歳の河合達郎さんが、政治部や経済部で国の政策や意思決定の現場を取材してきた経験を踏まえ、地方暮らしのリアルな姿を伝えます。

地元・岐阜に移住して5カ月 住宅コストは大幅に下がったけれど

岐阜県本巣市に地域おこし協力隊の一員として移り住み、およそ5カ月が経ちました。市にあっせんしてもらったアパートが生活の拠点です。

玄関側には、全校生徒44人が通う小学校と、子どもたちが散策を楽しむ通称「コボ山」。

ベランダ側は、ローカル線・樽見鉄道の神海(こうみ)駅が見下ろせます。山あいではありますが、市中心部まで車で約15分。日常生活上の不便さはさほど感じていません。

活動拠点の岐阜県本巣市。ローカル線「樽見鉄道」が市内を縦断する=筆者撮影
活動拠点の岐阜県本巣市。ローカル線「樽見鉄道」が市内を縦断する=筆者撮影

アパートの家賃は、2万円そこそこ。東京時代の2ケタ万円に比べると、住宅にかかるコストは大幅に下がりました。

食費を中心とする生活コストも減りました。食料調達が週に1~2度のまとめ買いとなり無駄なものを買う機会が減ったことと、ご近所さんからの野菜のおすそ分けに恵まれていることが理由です。

とはいえ、負担が大幅に減ったわけではありません。

会社員から個人事業主へと立場が変わり、健康保険料は自己負担増。年金は2号被保険者から1号被保険者へ。会社の厚生年金から外れ、自分で国民年金を納めます。「こんなにも、会社は守ってくれていたんだな」とつくづく感じました。

前年所得をベースに課される住民税支払いや、生活の足として不可欠なマイカーの維持費と保険料も大きな出費になります。

「それでやっていけるの?」 周囲の問いに出した答え

一方、収入面。

協力隊制度を実施している自治体により差はありますが、本巣市の場合、報酬は月20万円です。ここから、家賃や光熱水費も支払うことになっています。

そういうわけで、今年度の我が家計は赤字見通し。しかも、協力隊の任期は最長で3年間。

「それでやっていけるの?」

「その後、どうするの?」

将来展望をどう描いているのかということは、退職時もいまも、周囲から最もよく問われることの1つです。この問題、自分自身の中でこう折り合いを付けました。

この3年間は、地方での足場を固める「助走期間」。

協力隊は、自らの基礎を築こうとする間に一定の報酬を与えてくれる制度であり、ゼロベースに比べればはるかにリスクは抑えられ、むしろ恵まれてさえいる、と。

協力隊制度をつかさどる総務省が重視する指標の1つが、任期終了後の定住率です。

3年間協力して終わりではなく、その後も「条件不利地域」の担い手として存在し続けてほしい。重視するのは、そうした意味合いからでしょう。

2020年度末までに任期を終えた地域おこし協力隊員のうち、約6割が同じ地域に定住しているという=2020年度の地域おこし協力隊の活動状況などをまとめた総務省の<a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000740043.pdf">資料</a>より
2020年度末までに任期を終えた地域おこし協力隊員のうち、約6割が同じ地域に定住しているという=2020年度の地域おこし協力隊の活動状況などをまとめた総務省の資料より

地域とかかわりを持ち続けることが重要な使命の1つならば、その地でどう食っていくのかということが、容赦のない現実問題として立ちはだかります。

いかに収入の柱をつくって独立できるか、その勝負の3年間です。

心情的には、切り開かなければ先はないという切迫感と、可能性が広がっていることへのワクワク感とがせめぎ合っている状態、というところです。

荒れ地を「おこす」 地方の“負のドミノ倒し”を止めるために

「遊休資産(空き家や遊休農地、山林等)の活用による地域活性化」が、本巣市から課せられているミッションです。遊び、休んでいる資産を、再び働いてもらうよう「おこす」こと。それ以上、具体的な指示はありません。

その中で最初に、遊休農地の再生・活用に着手しました。理由は2つです。

重機で抜根されていく遊休農地=筆者撮影
重機で抜根されていく遊休農地=筆者撮影

1つは、荒れ地の再生から結実までには時間がかかるため、3年間をなるべくフルに使って走らせる狙いから。

もう1つは、「地方の基幹産業であるべき農業で食っていけない→働き手世代の流出→空き家が増える」という負のドミノ倒しに対し、最初の一押しをさせないためのヒントを見出したいとの思いからです。

お借りした遊休農地は、この夏、残されていた切り株や雑木の抜根と、その後の耕うんを経て、ようやく畑らしくなってきました。

荒れ地の草刈りに連続6日、計26時間を費やしたこと。そして、こげ茶色の土が見えてきたときの喜びと、安堵。1年目の夏の思い出です。

耕うんを終え、こげ茶色の土が広がった遊休農地=筆者撮影
耕うんを終え、こげ茶色の土が広がった遊休農地=筆者撮影

一方、息子の絵日記は、虫、虫、虫。

ミヤマカミキリの大きかったこと。図鑑と照らしながら観察し、かわいいと感じたこと。虫かごから逃がしてしまい、悲しかったこと。

虫によって染められていく、彼の幼少期と故郷の記憶。東京にいたら、どんな絵日記を描いたのだろう。

夏休みに、友達と虫取りをする息子=筆者撮影
夏休みに、友達と虫取りをする息子=筆者撮影

3年間という期限は、刻一刻と迫っています。よくばりですが、空き家にも山林にも、手を出していきたいと思っています。

 

気持ちがうずうずしだした方、朗報があります。

本巣市は、もう一人、協力隊員を募集中です(8月30日現在)…!

ご一緒に、地域の眠った資産をおこしませんか?

 

(このコラムは今回で終わります)

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