転職を学ぶべき3つの理由 「終身雇用が崩壊」「転職は増加」それ本当?

転職を学ぶべき3つの理由 「終身雇用が崩壊」「転職は増加」それ本当?

キャリア

「転職」がより身近な存在になっています。あふれる転職情報にどう向き合い、自分事として考えていけばいいのでしょうか。パーソル総合研究所の上席主任研究員として、これまで多くの社会人のキャリアをみつめてきた小林祐児さんが、転職について解説します。小林さんは社会人1年目の新入社員から転職について考えておいた方が良いと語ります。

「キャリア」と「転職」に囲まれた世界

いま、街を歩いても電車に乗っても、どこでも目に飛び込んでくる言葉があります。

「キャリア」と「転職」です。街頭広告、冊子、ネットのバナー広告、書籍などなど、一日街を歩けば、それらの言葉に出会わない日はありません。

コロナ禍の前の大学生の就活セミナー。各企業のブース前は学生であふれかえった=2019年3月、大阪府大阪市、朝日新聞社
コロナ禍の前の大学生の就活セミナー。各企業のブース前は学生であふれかえった=2019年3月、大阪府大阪市、朝日新聞社

背景にあるのは、人材サービス業の伸長です。

1990年代後半から規制緩和が進むと同時にインターネットの普及が進み、人材紹介や派遣、求人広告など人材サービス業界の市場規模は急速に拡大しました。

人材サービスは機械への初期投資が軽微で新規参入が比較的容易なため、どんどん新しいビジネスや企業が登場し、転職情報があふれることになりました。

 

もちろん人を欲する企業も人件費抑制や人手不足への対応としてアルバイトや派遣の従業員を増やし、中途採用の比率を増やしています。

人を巡る需要と供給がマッチした結果、私たちは「仕事」の情報に常に囲まれた環境で生活するようになりました。

 

雇用社会に蔓延する「決まり文句」

こうした環境の中で、特に若い方に気をつけてもらいたいことがあります。

仕事にまつわる様々な情報には、しばしば実態に即さない「煽(あお)り文句」がくっついているからです。

煽る意図は無かったとしても、雇用の世界にはなんとなく使われるフワフワとした「決まり文句」が数々あります。

 

例えば、「これからの社会は……」に続いて、「終身雇用は崩壊し」「雇用が流動化する(転職が増える)」、「若いうちでも活躍できる」、「フリーランスなど、組織から自由な働き方が当たり前になる」などなど……。

仕事の情報の現場には、このようにステレオタイプに繰り返される言葉が蔓延しています。

 

果たして、これらの飾り言葉は、本当に正しいのでしょうか? 順番に見ていきましょう。

 

「終身雇用」は崩壊? 「転職」は増加?

転職率の最近の推移=筆者作成、単位は%(図①)
転職率の最近の推移=筆者作成、単位は%(図①)

「終身雇用崩壊」は、典型的な決まり文句です。バブル崩壊後、リストラの波が来るたびになんども繰り返されてきました。

トヨタ自動車の豊田章男社長や経団連の中西宏明・前会長が言及するようになった2年前ごろから、再びブームになっている言説です。

「何度でも崩壊できる」ということは、端的に語義矛盾ですね。崩壊していないか、そもそも実態として存在しないかです。

関連してよく挙げられるのが、「雇用が流動化する」という言葉です。合わせて確認しましょう。

日本の転職者数の最近の推移=朝日新聞社(図②)
日本の転職者数の最近の推移=朝日新聞社(図②)

図①を見ていただければわかるとおり、日本の転職は長期的にはほとんど増えておらず、むしろ景気の波に左右され続けています。

昨年もやはりコロナ・ショックの影響で転職者数は下がりました(図②)。いま世間に出回っている「転職が増えている」というデータの多くは、「転職サービスの利用者が増加した」ことを示しているものばかりです。

企業の役職者の平均年齢の推移=筆者作成(図③)
企業の役職者の平均年齢の推移=筆者作成(図③)

「若い人が活躍」の実態は?

「若い人でも活躍できる」もよく目にする決まり文句ですね。「年功的でない」「実力主義」のような言葉も、しばしば企業から発せられます。

しかし、実際のデータを見ると、日本企業は高齢化とともに、課長・部長などの役職の平均年齢はきちんと上がっています(図③)。

むしろ、課長・部長などのポストの数そのものは減少する傾向にありますので、かつてなら部長までなれた人が課長までしか出世しない社会になってきました。これも決まり文句と実態が乖離(かいり)しています。

独立や自営をしていくキャリア形成をめざす人の割合の推移=筆者作成、単位は%(図④)
独立や自営をしていくキャリア形成をめざす人の割合の推移=筆者作成、単位は%(図④)

「フリーランスなどの自由な働き方をする人が増える」という言葉も、とりわけよく目にするものの1つです。

しかし、日本の自営業は長期にわたって減少を続けてきました。また、独立・自営していくキャリアを望む人も少しずつ減ってきています(図④)。

コロナ・ショックによって個人は起業リスクを取りにくくなったので、まだ減る見込みです。

 

むしろ少しずつ増えているのは、スキマワークや副業など、メインではない生活費補填的な働き方です。

「組織から自由な働き方をする個人」のようなキラキラした人たちかというとそうではありません。

 

「はたらく」をめぐり、つくられるムード

このように、「はたらく」を取り巻いている言説には、「なんとなく合ってるような気がすること」や、「みんなが言うからそうでしょう」というレベルの言葉があふれていて、こうした言葉が全体を覆うムードを作っています。

「雇用の変革」などという大変化への煽りは、メディアやビジネス界、ひいては近代社会そのものがもっている「手癖」のようなものです。

意識と実態がかみ合わぬ「混沌」

わたしたち個人は、このようなフワフワした情報があふれるなかで就業人生を歩んでいかなければいけません。

そして、そうした言説は、これまでの仕事のあり方の「崩壊」については饒舌(じょうぜつ)に語りますが、新しい「正解」や「モデル」については指し示してはくれません。

 

社会学の伝統では、人々の意識と実態が整合せず、規範が混沌状態にあることを「アノミー」と呼んできました。

やや大袈裟に言うならば、わたしたちがいま生きている雇用社会は、「転職アノミー状態」に陥っています。

 

そこで、本連載のタイトルにしている「転職学」の出番です。

私は立教大学・中原淳教授と共に研究を進め、今年になって書籍として上梓しました。

転職というのは社会や会社から見ると小さな事象ですが、当人にとっては自分の一生を左右する大きなことです。

先人の知恵も多く借りながら、個人個人に役に立つことを目指し、総合的かつ実証的に転職を探究してきました。

 

なぜ「転職」を学ぶのか

私は、社会人は何歳であろうと、そして転職する・しないにかかわらず、転職についてもっと考え、学ぶべきだと考えています。

これほど転職情報に囲まれながら生きているのにも関わらず、ふつうに働いているだけでは転職はとても「学びにくい」ものだからです。それには大きく3つの理由があります。

 

1つ目は、転職は「学校から学べない」こと。転職について、私たちは学校教育の場で学ぶことはありません。

高校や大学でのキャリア教育やキャリアセンターでは、「最初の就職」だけです。しかし、社会人になってからずっと頭を悩ますことになる「転職」については全く教えてくれません。

 

2つ目は、転職は「人から学べない」こと。転職の失敗・成功エピソードは世の中にゴマンとありますが、それはあなたの人生とは重なりません。

「こんなふうに転職で成功した!」「この方法で儲かる!」というような人と、あなたのキャリアは異なります。こうした個別性の高い現象を、1対1の対応関係で語るのは、そもそも無理があるのです。

 

3つ目は、転職は「失敗から学べない」こと。転職が失敗したか成功したかは、転職後しばらく経たないとわかりません。

そして、そのときにはすでに「やり直し」がききません。

しばしば「年収150万円アップ」や「大手有名企業への転職」などが「成功譚」のように語られますが、年収がいくらアップしてもハードワークについていけずに辞めてしまったり、役職につけなかったりすれば、生涯賃金は下がります。

大手企業に入ったあとに、企業規模の差からくる組織文化や仕事の進め方に馴染むことができず、活躍できない人はたくさんいます。

転職をとりまくこうした表面的な「成功譚」も、はたらく世界の言葉の「貧しさ」の1つです。

気を散らしながら「自分」をみつめる

閑話休題。

ドイツの哲学者、ヴァルター・ベンヤミンは、複製技術の発展によって大衆化した芸術作品を注意散漫な状態で鑑賞していく大衆について、「気散じ」する観客として論じました。

わたしたちも今、あちらこちらにある(ありそうに見えている)仕事の情報や広告にフラフラと「気を散らし」ながら、日々、雇用の世界を歩いています。

その中から、自分が歩むべき一筋の正しい道を見つけるために、転職と、転職を考える自分自身を、より客観的にみつめていきましょう。

 

(このコラムは月1回掲載予定です)

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