遊休農地再生への甘くない道のり。動かなくなったチェーンソーが教えてくれたこと

遊休農地再生への甘くない道のり。動かなくなったチェーンソーが教えてくれたこと

キャリア

「なんじ、侮ることなかれ」

34歳にして初めて握ったチェーンソーから、そんな戒めを受けることになるとは……。

「地方創生」「東京一極集中の是正」――。政府の旗振りの下、こうした政策が進められてきました。コロナ禍でリモートワークが広まったことも追い風に、地方移住に注目が集まっています。地方の現状はどうなっているのか。東京にいては見えてこなかった課題とは何なのか。この春から、朝日新聞記者を辞めて地元・岐阜で地域おこしに携わる34歳の河合達郎さんが、政治部や経済部で国の政策や意思決定の現場を取材してきた経験を踏まえ、地方暮らしのリアルな姿を伝えます。

「あれ、ブレーキレバーが動かない」 スマホで調べてみたけれど

岐阜県本巣市にある遊休農地。

かつて柿畑だった一帯が、高齢化と担い手不足により、近年だんだんと、耕作放棄地へと変わっていっています。

その一角をお借りし、再び使えるようにと、作業を進めています。

お借りした遊休農地。柿の切り株が残されたり、雑草が生い茂ったりしている=ドローンで、三本木隆さん撮影
お借りした遊休農地。柿の切り株が残されたり、雑草が生い茂ったりしている=ドローンで、三本木隆さん撮影

ひと通り雑草を刈り終えた後は、畑に残された柿の切り株や、こんもりと茂った名も知らぬ雑木を、根ごと引っこ抜くのが次のステップ。

抜根作業を頼んだ業者によると、「コンマニーゴー」の重機(バックホー)を使うそう。

「コンマニーゴー」を脳内で「0.25」へと変換し、それが重機の大きさを表していることを理解するのに、しばらくの時間を要しました。

それより小型だと、抜くのに時間がかかったり、重機が株に負けて転倒する恐れがあったりするのだといいます。

重機での抜根作業は、木の根元が見えていないとやりづらい。切り株なら見えるが、雑木はわさわさとしていて見えない。だから、作業の前にきれいに処理しておいてくれ、という業者の方からの指令がありました。

(ビフォー)雑木が生い茂った遊休農地=筆者撮影
(ビフォー)雑木が生い茂った遊休農地=筆者撮影

そこで握ったのが、チェーンソー。

当然持っていないので、農業資材を扱う店でレンタルします。本体は2泊3日で、消耗品のチェーン刃、チェーンオイル、燃料の混合ガソリンはいずれも購入。税込み9306円。

店長から直々に操作方法を教えていただき、そのまま畑に直行。心の中で安全を祈り、エンジンをぶるんとかけ、ばっさりと枝を切り落としていきます。うん、いい調子。

チェーンソーは、30分ほどで燃料が切れました。梅雨の中休み、できるだけ前倒しで作業したいとの思いから、続けて燃料を補充します。再び雑木を倒さんとしたところ、異変は起きました。あれ、ブレーキレバーが動かない。

刃の回転を止めるブレーキのレバー。それまではカチッと快活な音を立て、ロック・解除の役割を果たしてくれていました。ところが、何か内部でくっついたような感じで動きません。スマホで調べると、ブレーキ付近のプラスチックが熱で溶けて固まってしまう「焼き付き」という現象が、ままあるようです。

どんなことにもトラブルは付きもの。焦ることなく原因を突き止め、いかにも涼しい顔で解決してしまう対応力がいま、問われています。

ほとんど人通りのない畑で涼しい顔を決め、店長からお借りしていた工具で分解開始。原因の箇所はすぐにわかり、持っていたハサミで削り取りました。我ながら、なかなかの対応力ではないか。

落とし穴は最後にありました。一番外側のカバーを、ナット→カバー→ボルトの順ではめるべきところ、ボルトとナットを直接締め込んでいたのです。気付いてやり直そうとしましたが、時すでに遅し。

どうねじっても、ボルトとナットはがっちりと固まったままです。

涼しかったはずの表情は、苦悶のそれへ。雨も落ち始め、うなだれながら帰宅しました。

翌日、相談した義兄が、涼しい顔で外してくれました。なんと、あっさり。「万力(まんりき)」という、名前からして頼もしい工具があることも学びました。

ボルトとナットは、締め込みすぎるとびくともしない。この4か月で最小級の気づきです。

が、自分の詰めが甘いこと、そして、なんとちっぽけな存在で、田舎を生き抜くたくましさが欠如していることを思い知るのには、十分すぎる経験でした。

(アフター)チェーンソーで処理した後の遊休農地=筆者撮影
(アフター)チェーンソーで処理した後の遊休農地=筆者撮影

農業に求められるのは若手より「定年退職世代」? 地方で感じた最大級のギャップ

一方、最大級のギャップ。

それは、農業の担い手を志す若手が、歓迎されるばかりとは限らない、ということです。

そう察したのは、地域農業の振興を図る立場の担当者の、こんな言葉でした。

「河合さんは、まだお子さんも小さいですし。そんなにリスクとれないですからねぇ」

同じ素人なら、会社を定年退職してから就農する方がいい。なぜなら、十分な退職金を手にしているから。

子供が巣立っていれば、生活費や養育費もさほどかからない。立派なビニールハウスが立てられ、井戸だって掘れる。

対して河合さん、あなたには投資余力がない。すなわち、うまくいくわけありません。

そんなメッセージでした。えっ、まさか。求められているのは、若手より定年退職世代??

農林水産省が発表している「農業構造動態調査」を見てみます。2019年まで4年間の「農業就業人口」を年代別に集計すると、15~39歳の若年世代はボリュームが小さく、かつ微減傾向にあります。

農業の担い手の年齢別推移をまとめたグラフ=農林水産省「農業構造動態調査」より筆者作成
農業の担い手の年齢別推移をまとめたグラフ=農林水産省「農業構造動態調査」より筆者作成

この統計データのようなイメージがあったからこそ、私は担当者の言葉にムッとしました。

ほら、「地方の衰退」が叫ばれて久しい中、就農に意欲のある若年層は貴重な存在じゃないか。なのに、なんだあの言いぐさは。人んちの金のことまで口出して、余計なお世話だ、と。 

言葉の真意はなんだったのか。

それは、農業を始めるなら、農業法人に就職したり、研修施設に通ったりという、ステップを踏むススメだったのだと思います。

ちなみに「農業就業人口」には、農業法人に勤める方の数は含まれず、あくまで農家の数の傾向をとらえたデータです。

“順風満帆”でなくても 10年後、取り返しがつかなくなる前に

くじかれた出鼻。ですが、結局、かの担当者がススメない方の道を貫くことにしました。

目の前に厳然と広がっている遊休農地をなんとかするという、課題に真正面から挑む入り口だってあるべきだと考えたからです。

移り住んだ直後から面倒を見てもらっている地域のベテラン、フジオさん(79歳)の言葉が背中を押してくれました。

「見とってみい。この辺の柿畑、10年後は誰もやらんくなるで」

放棄され、荒れ果て、取り返しがつかなくなる前に、あんたがここでしっかりやっていてくれ。そんな思いを受け取りました。

再生作業は今後、重機で根を抜いた後、耕うん機で土を起こし、殺菌や施肥といった土づくりへと続きます。営農の段階に入っても、中山間地のため、平地より短い日照時間や、シカなど獣害対策を頭に入れる必要があります。

労力とコストが余計にかかる状況に出くわすたび、感じるのが「そりゃあ、誰もやろうとしないよな」ということ。

ただ、決してネガティブにではなく、だからこそ、この取り組みには意義があるのだととらえています。

自分自身が、実験者と実験台の一人二役を演じるような、この形。「順風満帆、のんびり地方ライフ万歳!」という状況ではありませんが、どこまで行けるのかやってみたいと思っています。

「侮ることなかれ」という、チェーンソーからの忠告を忘れないようにして。

 

(このコラムは月1回掲載予定です)

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