中東の2つの大きな動きと気候変動政策のこれから。世界の“変化”はこう見よう【後編】

中東の2つの大きな動きと気候変動政策のこれから。世界の“変化”はこう見よう【後編】

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いま海外で起きていること、世界で話題になっていること。ビジネスパーソンとして知っておいた方がいいけれど、なかなか毎日ウォッチすることは難しい……。そんな世界のニュースを、コメディアンやコメンテーターとして活躍しているパトリック・ハーラン(パックン)さんと、元外交官の中川浩一さんが、「これだけは知っておこう」と厳選して対談形式でわかりやすくお伝えします。

イスラエル新政権の発足とイラン大統領選。日本のビジネスに影響も

中川浩一さん
中川浩一さん

中川 6月は中東でも大きなイベントが2つありました。1つは、イスラエルで、6月13日に新政権が発足しました。ネタニヤフ氏が2009年から12年間続けて首相を務めてきましたが、退陣となりました。

 

中東イスラエルで13日夜(日本時間14日午前)、国会が野党8党による連立政権を信任し、歴代最長の連続12年にわたって政権を維持してきたネタニヤフ首相の退陣が確定した。極右政党「ヤミナ」党首のベネット元国防相が首相に就任した。

 

イスラエル首相が退陣、最長政権に幕 新首相は極右党首:朝日新聞デジタル

イスラエルのネタニヤフ前首相=2020年1月、朝日新聞社
イスラエルのネタニヤフ前首相=2020年1月、朝日新聞社

もう1つは、イランで6月18日に大統領選挙が行われ、ライシ師という強硬派の方が勝利し、8月から大統領となります。イランは4年に1回、大統領選挙があります。4年前の投票率は73%でしたが、今回は49%でした。これは史上最低の投票率でした。

 

18日に投票されたイラン大統領選で、内務省は19日、イスラム法学者で保守強硬派のエブラヒム・ライシ司法長官(60)が得票率62%の約1792万票で初当選したと発表した。2期8年続いた保守穏健派のロハニ政権は米国に対して融和的だったが、ライシ師の新政権では外交方針が大きく転換する可能性がある。

 

イラン大統領に保守強硬派のライシ師 外交方針に変更も:朝日新聞デジタル

イラン大統領選で初当選後、初めての記者会見を終えたライシ司法長官=2021年6月21日、テヘラン、朝日新聞社
イラン大統領選で初当選後、初めての記者会見を終えたライシ司法長官=2021年6月21日、テヘラン、朝日新聞社

イランでは、誰が大統領選挙に立候補するかは、護憲評議会という最高指導者のハメネイ師が率いる組織が事実上選んでしまうシステムになっていて、穏健派の候補者はほとんど立候補できず、盛り上がりに欠けた選挙でした。

結果は、強硬派のライシ政権の誕生でした。私は、2008年から2011年まで、アメリカの日本大使館で勤務していました。そのときに、当時のオバマ大統領が政権発足すぐにイランのノールーズという新年に際し、融和メッセージをイラン指導部に動画配信していたのですが、その後、6月にイランの大統領選挙があり、強硬派のアハマディネジャド大統領(当時)が続投で勝利すると、一気に融和ムードがしぼんだんです。

アメリカとイランって、大統領の任期は1期4年で最大2期までと同じで、時期も約半年しか違わない。アメリカが先なんです。当時もせっかく民主党穏健派のオバマ大統領が誕生したんですけど、イランでは強硬派大統領になりました。対立はなく、エスカレーションはしませんでしたけど、合意もできませんでした。

核合意に到達できたのは、結局イランで次の選挙の2013年に現職の穏健派のロハニ大統領が出てきた後の2015年でした。今回、民主党穏健派のバイデン大統領が出てきましたけど、イランはまたもや強硬派になってしまいました。なかなかアメリカで民主党、イランで穏健派の大統領という組み合わせにならないんです。

2013年から2016年は、オバマ大統領と穏健派ロハニ大統領の組み合わせで、そこで核合意ができたんです。これが歴史です。

先ほど述べたイスラエルは極右のベネット首相になり、イランも強硬派になりました。このような中でバイデン大統領がどう振舞ってくのかが注目されます。日本にとっても中東は石油輸入の約9割を頼っている地域です。地政学的にも、そしてエネルギーにとっても、中東は大事です。パックンは、イランに強硬派の政権が誕生したことで、今後アメリカ・イラン関係をはじめとする中東情勢はどうなると思いますか。

パックン どうなるか予測するのは難しいですけど、希望を申し上げると、地政学の基本、政治学の基本ですけど、強硬派が自分の本来のスタンスと反対の方の融和策をとると、その政策は続くんです。リベラル派が、本来は反対するような、たとえば減税とか、規制強化とかをやると長続きするんです。

パックンさん
パックンさん

要は本来どおりの主張で動いてしまうと、政権が交代したら、反対派がそれを消してしまいます。だからオバマ政権、アメリカの左派政権が、主張通りのイラン融和策、イランとの核合意を達成したから、右派のトランプ政権が反対、離脱してしまったんです。どの政権でも前の政権下の条約を守るのは大前提なんですけど。

でも長く続くのは、たとえばニクソン元大統領が中国を訪問し(1972年)、国交正常化したときです。右派が反対するようなことを右派がやったんです。クリントン元大統領がアメリカの福祉制度の縮小政策をとった。本当は民主党はリベラル派で拡大を訴えるべきなんですけど、そのリベラル派がいやがるようなこと、右派が喜ぶようなことをやったんです。これも長続きしました。

こういうことが今回のイランの強硬派政権でも起きたらいいなと思います。穏健派のロハニ大統領が作った核合意なんですけど、やっぱりイランの国益のために強硬派もそれを守るしかないとライシ次期大統領が決めれば、長続きするかなと思います。

中川 先日、ワシントン勤務時代の、シンクタンクに務めるアメリカ人の友人と話していたら、今のワシントンのシンクタンクでも、「強硬派の大統領だからこそ大胆なことができるのではないか」という見方が結構あるらしいです。

ですけど、私は、イランはそこまで甘くないかなと思っています。でも、ビジネスの世界では、バイデン大統領がイランの制裁を解除してくれることを期待しています。ヨーロッパも中国も、みんなそれを期待しています。日本もオバマ政権とロハニ政権の組み合わせになった期間(2013年~2016年)はイランとのビジネスが進んだので、私も、今はビジネスコンサルタントの仕事もしているので、強硬派でもイランとのビジネスが進むということになればいいなと思います。

パックン イスラエルのベネット新首相も強硬派で、パレスチナ問題では、パレスチナ国家樹立や入植地の撤去に強硬に反対しています。でも、同じ論理で、強硬派だからこそ出来ることもあるかもしれません。

ベネット首相も、イランのライシ次期大統領も、実際に政権を取れば、これまでの発言、レトリックを変えて、現実的になってくる可能性もあります。そういう視点も含め、これからのイスラエル、イランの動きから目が離せません。

ただ、イスラエルは8党の連立政権なので、ベネット首相の思うようにはいかないかもしれません。一方で、ライシ次期大統領は、最高指導者のハメネイ師の後継候補にもあがっています。そのライシ師が決めたことはイランで実行かつ永続可能だと思います。

中川 バイデン大統領は、イスラエルの新大統領をすでにワシントンに招待して、今度はベネット首相を招待する予定です。バイデン大統領はネタニヤフ前首相とは30年、40年のつきあいですが、変化はやはり大事で、イスラエル新政権に期待していると思います。12年間のネタニヤフ長期政権で少し停滞、疲れがあったのかもしれません。

パックン バイデン大統領にとってネタニヤフ前首相とやりづからかったのは、明らかにネタニヤフ前首相がトランプ前大統領を強く支持していたことです。

トランプ前大統領もイスラエルの選挙における中立的なスタンスを捨てて、イスラエルの選挙直前に、イスラエルとシリア国境のゴラン高原におけるイスラエルの主権を認めたり、ネタニヤフ前首相にとって有利なことをやってあげたり、そういう取引があったように見えます。

ネタニヤフ前首相はアメリカ国内でもトランプ支持を表明して、これがバイデン大統領にとっては、代わって良かったと思うところです。いくら長いつきあいとは言え、バイデン大統領にとっては明確にライバル・トランプを応援した相手とは仕事がしづらいだろうと思います。

でも、バイデン大統領にとっては、イスラエルの首脳との関係、アメリカ・イスラエル関係は重要なので、ベネット首相とは仲良くやっていくと思います。それがアメリカ国内へのアピールにもなると思います。

G7で大きなテーマとなった「気候変動」。アメリカはどこまで本気?

中川 対談冒頭のG7に戻りますが(前編はこちら) 、今回は、気候変動のテーマも大きく扱われました。

「エネルギー革命」が今後のキーワードになりますが、日本では、菅義偉首相が、昨年末に「2050年 カーボンニュートラル」を表明していますし、その後、アメリカでバイデン政権が誕生して、トランプ前大統領から大きく政策変更して、気候変動に真剣に取り組もうとなりました。

ケリー元国務長官という大物を気候変動特使に任命しました。G7首脳会合でも先進国で共通目標をもったことは大きかったと思います。アメリカでは石油のシェール革命があって、もはやアメリカは石油の産油国でもあって輸出国でもあります。バイデン大統領はこの気候変動の問題をアメリカ国内でどうアピールしていく考えなのでしょうか。

パックン 今のところ、バイデン大統領の気候変動政策はある程度評価されていると思います。環境意識の高いリベラル派国民からは、国際社会のリーダーとして、バイデン大統領が気候変動問題で先頭に立とうとする姿勢は評価されています。

しかし、世界からは、トランプ前政権の名残りもあって、すなわち、どうせ気候変動のパリ協定を作っても離脱するでしょみたいな、アメリカがどこまで本気なのか、リーダーシップの実態はまだまだ疑われています。

対談時の写真はいずれも上溝恭香撮影
対談時の写真はいずれも上溝恭香撮影

右派、保守派の皆さんはどうかというと、まあ、企業に対する規制は間違いなくいやがりますよ。また、昔ほどではありませんが、今でも温暖化を信じないアメリカ国民は結構います。

でも、これは実体のない反対だと感じるのは、バイデン政権が2030年、2050年の目標を掲げて発表したときに、一時期、「バイデン氏は牛肉を禁止にする予定だ!」という、明らかなうそを報じて、保守派メディアが盛り上がりました。

牛を育てるのには、ものすごく土地も、お水も必要で、環境に悪いうえ、CO2の回収率もすごく悪いからです。CO2を削減するには牛肉を禁止にしなければならないという論法です。本当にそう主張する人もいます。人間はそろそろお肉から卒業しなければならない、と。

でも、もちろん、バイデン大統領は一切、そんなことは言っていませんし、そんな計画もありません。逆に言えば、そんなフェイクニュースまででっちあげないといけないぐらいアメリカ国内で、環境問題では右派が追い込まれているとも言えます。

世論調査でも、バイデン氏の気候変動対策にはおおむね賛成なんです。ただ、この先、アメリカ国民の生活に直接影響がでるような規制が課されたりしたら、「夢理論」とは話が変わってしまうと思います。

「ワクチン外交」、どう見ればいい?「中国を良い競争相手に」

中川 6月2日に、日本は、ワクチンサミットをオンライン形式で開催し、菅首相が出席。日本は8億ドルをCOVAX(Covid 19 Vaccines’Global Access)に追加拠出しました。ビジネスパーソンも、ワクチンをめぐるグローバルな動きとして知っていた方が良いと思います。

 

途上国向けの新型コロナウイルスワクチン支援をめぐり、菅義偉首相は2日、各国が共同調達する枠組み「COVAX(コバックス)ファシリティー」などに対し、約3千万回分のワクチンの現物を提供する方針を表明した。英アストラゼネカ製を想定している。8億ドル(約877億円)の追加拠出も打ち出した。

 

現物ワクチン3000万回分提供 途上国向け首相表明:朝日新聞デジタル

ワクチン・サミット後に報道陣の取材に応じる菅義偉首相=2021年6月2日、首相官邸、朝日新聞社
ワクチン・サミット後に報道陣の取材に応じる菅義偉首相=2021年6月2日、首相官邸、朝日新聞社

パックン このワクチンをめぐる外交というのは、中国が発展途上国に対してワクチンを供給すると言い出してから、アメリカもEUも動き出しました。結局ワクチン10億回分供給とか、何億ドル、何十億ドル分の支援金とか、ワクチンやお金を提供するようになったのは、途上国、そして世界全体にとってのものすごくプラスなんです。

だから、「ワクチン外交」っていうと競争みたいですけど、私はすごくいいことだと思います。私は、民主主義、資本主義で育った一員として、日本も含めた西洋側が、中国に負けないように頑張って防波堤となり、中国の負の影響が広がらないようにしていただきたいんですが、万が一、中国がそのけん制から抜けて、ワクチン提供ができたとしてもいいことなんですよ。

同じことがインフラにも言えるし、環境対策にも言えるし。今回、日本がASEANに対し、エネルギー支援することもいいことです。対立国同士が、世界に影響を広げようとして支援金を出すことは冷戦時代にもありました。

たしかに、今回は欧米対中国との構図はありますが、その結果として世界、特に途上国の人々が恩恵を受けるなら、対立も悪くないんじゃないかと思います。中国が良い競争相手になっていると思います。

中川 日本のASEANへの脱炭素支援については、日本政府は今回、1兆円の支援を表明しました。経産省がこの5月に日本・ASEANビジネスウィークを開催しました。ASEANは、脱炭素による成長が見込める地域ですし、日本は、日ASEAN首脳会合を開催するなどして、すでにASEANとの関係は深いですが、ビジネスパーソンも改めて注目してほしい地域ですね。

 

(この対談は月1回掲載予定です)

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