人はいつ死ぬのか予想できない #48

人はいつ死ぬのか予想できない #48

ライフ・マネー

朝日新聞社メディアビジネス局運営の金融メディア「START!」に掲載された人気連載をbizbleでも掲載。経済評論家の加谷珪一さんがお金の教養を伝えます。

以前、本コラムにおいて「老後にいくら必要か」と考える前に、現役時代の生活をできるだけコンパクトにしておくことが重要という話をしましたが、今回もこれに関連した話題です。

平均寿命だけでは、自分がいつ死ぬのか予想することはできない

年金2000万円問題が依然として世間を賑(にぎ)わせていますが、一連の話にはある「前提条件」があります。それは「老後は貯金を取り崩しながら生活する」という考え方です。

ライフプランに関する本を見ても、退職後は年金で生活し、足りない分は貯金から取り崩すということが大前提となっており、多くの人は、これを当たり前のことだと思っています。そうであるからこそ「老後には2000万円が必要だ」「いや6000万円必要な人もいる」といった議論になるわけです。

現実問題として、高齢になってからも十分な稼ぎを得られる人はごくわずかであり、大半の人は、貯蓄を取り崩さないと生活できないというのはその通りでしょう。しかし、貯金を取り崩しながら生活することを大前提にするというのは、少し考え直した方がよいと筆者は考えます。

理由はいくつかありますが、もっとも大きいのは、人は、自分がいつ死ぬのか予想できないことです。

現在、日本人の平均寿命(2017年時点)は男性が81歳、女性が87歳で、ここからさらに寿命が延びると予想されています。しかし、これはあくまで平均値であって、自分が本当のところ何歳で死ぬのかは誰にも分かりません。このため、老後にいくら必要、という話のほとんどは平均寿命で死亡することを想定しています。

これ以外に方法はありませんから、平均寿命を用いることはひとつの考え方だと思います。しかしながら、この数字は、あくまで平均「寿命」であって、平均「余命」を示したものではないことに注意する必要があるでしょう。つまり、自分は50歳だからといって、平均寿命から今の年齢を引けば、生きる年数が計算できるわけではないのです。

寿命と余命は似ていますが違います。余命というのは、それぞれの年齢の人が、あと何年生きるのかを示した数字で、寿命というのは0歳の人の平均余命のことを指しています。長生きしている人はさらに長生きする確率が高くなりますから、50歳あたりを境に人の余命はさらに延びていくのです。

具体的には、男性で50歳の人の平均余命は28年ですから平均83歳まで生存することになります。60歳の人は84歳、70歳の人は86歳、80歳になると何と89歳まで生きる可能性が高いのです。これは平均寿命の81歳を大きく上回っていますから、81歳でお金が尽きる計画を立てていた場合には、確実に生活が破綻(はたん)します。

あと何年生きられるのかは、自分の年齢によって変わってきますから、一律に死亡時期を決めてしまうのは少々危険であることがお分かりいただけると思います。

もうひとつの理由は、まとまったお金がある場合には、運用して稼ぎを得ることが可能だからです。

安全運用でどれだけの利子や配当を得られるのかがもっとも重要

例えば退職金や貯蓄などで3000万円くらいの資産があれば、ある程度、安全な資産で運用しても2%から3%程度の利回りを得られる可能性があります。3000万円を3%で回せば年間90万円もの金額を何もせずに手に入れることができます。これはあくまで利子や配当ですから、元本を減らさずに毎年、この金額が得られることに留意してください。

もし年金を年間で150万円ほどもらえる人であれば、運用益と合算して年間240万円の収入となりますから、何とか生活することができます。当然ですが、利子や配当は発行体が破綻しない限り、半永久的に獲得できますから、長生きしてもまったく問題ありません。

世間一般でいうところの豊かな生活を維持するためには、年間300万円以上の支出が必要ですが、貯金を取り崩しながら300万円以上を支出するプランと、240万円まで支出を落とし、半永久的にそれで生活するプランを比較した場合、後者の方が、圧倒的に精神的ゆとりが大きいでしょう。貯金を取り崩す生活は最初のうちはよいのですが、長生きするにつれて、確実に追い込まれていきます。

この話はあくまで3000万円の投資元本があってはじめて実現できるものですから、全員に該当する話ではありません。しかしながら、筆者がもっとも言いたいことは、貯金を取り崩しながら生活することを、何の疑問もなく受け入れるのではなく、もう少し多角的に物事を検討した方がよいということです。

若い世代の人であれば、老後にいくら必要かを考える前に、できるだけ投資の元本を確保することに注力した方が合理的です。副業などを駆使すれば、退職時に3000万円の資金を確保することは非現実的な話ではありませんから、チャレンジしてみる価値はあるでしょう。

すでに高齢になっている人も、ある程度、まとまった資金を持っているのであれば、安定運用でどれだけの利子や配当を得られるのか、真剣に検討した方がよいでしょう。リスクの高い投資先に振り向けてしまい、元本を失ってしまうようでは本末転倒ですが、定期預金だけで遊ばせているお金がたくさんある場合には、運用プランを少し考え直した方がよいかもしれません。

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