フェイスブックの仮想通貨から考える、そもそもお金って何? #47

フェイスブックの仮想通貨から考える、そもそもお金って何? #47

ライフ・マネー

朝日新聞社メディアビジネス局運営の金融メディア「START!」に掲載された人気連載をbizbleでも掲載。経済評論家の加谷珪一さんがお金の教養を伝えます。

米フェイスブックの仮想通貨「リブラ」が話題となっています。各国の通貨当局が一斉に懸念を表明していますから、順調にサービスを開始できるのかについては何とも言えない状況です。仮想通貨の代表であるビットコインは誕生から10年が経過しました。今回はそもそも通貨とは何か?というお話をしたいと思います。

政府が管理していないと通貨ではないという話はウソ

政府が発行したり、管理したりしていないと通貨ではないと思っている人も多いのですが、それは必ずしも正しい認識とはいえません。歴史上、政府が発行・管理していない通貨はいくらでもありましたし、現在でも香港ドルのように民間銀行が発行する通貨というものも存在します。

通貨には、大きく分けて2つの機能があります。ひとつは資産を保全するための機能で、もうひとつは決済する機能です。多くの人は、貯金をしていると思いますが、これは明らかに資産の保全を目的として通貨を保有しているということになります。

決済については説明するまでもないと思いますが、通貨がなければ、買い物は物々交換になってしまいますから、わたしたちは、日々決済をするために通貨を用いています。

では、なぜ、ドルや日本円といった通貨は通貨として利用されているのでしょうか。その理由は、ただひとつ、多くの人が価値があると信用しているからです。

皆が価値があると信じているから価値があるというのは、少々、危うげな根拠に思えますが、通貨というのは本来、そういうものです。かつて各国の通貨制度が金本位制だった時代がありますが、これは各国政府が金を保有し、それを裏付けに通貨を発行するという仕組みです。

金本位制は金の裏付けがあるという点では、担保がない制度に比べて信頼度が高いというイメージがありますが、では、なぜ金に価値があるのかということになると、話は微妙になってきます。確かに金の一部は、宝飾品や工業用途に使われていますが、世界の通貨制度を維持するだけの価値がこうしたニーズから生まれていると解釈するには無理があります。

やはり、金についても、多くの人が価値があると思い込んでいることが価値の源泉であるという側面があることは否定できないでしょう。

通貨が持っている、少々、危うい特徴について考えた時、身近な存在で、もっとも信頼できるのは政府であるというのは、多くの人にとって共通認識だと思います。政府であれば、よほどのことがない限り、破綻(はたん)することはないので、結果的に法定通貨(政府が発行もしくは管理する通貨)が、通貨としてのスタンダードになっているという話であって、政府が発行しないと通貨ではない、ということではありません。

通貨制度について議論するよいきっかけに

では、ビットコインやリブラといった仮想通貨について、わたしたちはどう位置付ければよいのでしょうか。先ほどから説明しているように、政府が発行していないと通貨ではないというのは誤りですから、多くの人が通貨としての価値があると認めれば、ビットコインもリブラも通貨になれる可能性があります。

ビットコインには裏付けとなる資産がありませんから、現在の米ドルや日本円と同様、信用のみが担保になっている通貨です。一方、リブラは米ドルやユーロなどの資産を担保にして通貨を発行する計画ですから、香港ドルのような存在になる可能性が高いと考えられます。ビットコインと比較すると、多くの人から信用を得やすい仕組みといってよいでしょう。

ビットコインは価格が常に乱高下していますが、その理由は、ビットコインの本質的な価値がいくらなのか、市場が完全に判断できていないからです。その点についても、リブラは米ドルやユーロとリンクすることで価格変動が抑制される仕組みですから、本質的な価値を判断しやすいと考えられます。

しかしながら、リブラがホンモノの通貨として世界に流通するようになるのかは現時点では何とも言えません。各国政府が極めて強い警戒感を示しており、フェイスブックは各国政府と交渉する必要があるからです。

いくらリブラが通貨として価値のある仕組みだったとしても、各国政府が法律で使用を禁じてしまえば、リブラを流通させることはできません。では、なぜ各国は、民間企業1社が提供する仮想通貨にこれほどまでの警戒感を示しているのでしょうか。それは、政府が持っている通貨発行権という、とてつもない利権をリブラが奪ってしまう可能性があるからです。

政府もしくは中央銀行は通貨を一元管理し、銀行を通じて、その流通量をコントロールすることで経済圏を支配しています(量的緩和策などはまさにその典型です)。政府が銀行を通じて経済を支配する中央銀行の制度には、政府が管理しているという安心感がある一方、政治に左右されやすく恣意(しい)的な政策が行われているとの批判も出ています。一部の経済学者が、通貨の管理は政府から完全に独立させるべきだと主張しているのはこうした理由からです。

こうした通貨管理の一部をリブラが担うということになった場合、政府が持つ絶大な利権の一部が失われてしまいますから、当局としては非常に困った事態となります。

これまで通貨の管理をどうすべきかという議論はあまり活発ではありませんでした。筆者は、リブラやビットコインといった仮想通貨への投資を特別に推奨する立場ではありませんが、リブラの登場は、通貨制度に関する本質的な議論を始めるよいきっかけになると思っています。

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