衝突続いたガザ。問題の背景は? 世界のニュースを知ってビジネスに生かそう【前編】

衝突続いたガザ。問題の背景は? 世界のニュースを知ってビジネスに生かそう【前編】

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中東にアメリカがどう関与するかがカギ。「トランプ氏の責任は大きい」

パックン 中川さんは中東の専門家なので、おっしゃるとおりですけど、トランプ前大統領の責任は結構大きいと思いますよ。外交では普通、「交渉」、「取引き」をしてカードを渡しますけど、トランプ前大統領はその常識を破って、何も見返りのないまま、イスラエルの望むとおりにカードを切ってしまいました。それがパレスチナ人からすると絶望的になる要因だったと思います。

もう一つは、今、イスラエル人は、日常生活でパレスチナ問題を解決する必要性を全く感じていないようです。パレスチナ人との間に壁も建てました、イスラエルには、迎撃ミサイルシステムもあります。ハマスにガザ地区を任せたとはいえ、結局、イスラエルが、防空、水資源も支配しているんです。そして自分たちの生活は安泰のままです。軍事的な勢力の均衡もありません。

イスラエル人にとって、どこかで外圧がかかって、我々は国家として理想から遠ざかっていると思い始めないと解決にとりかからないと思います。イスラエルにとっては今は、現状で十分なんです。

中川 1993年のオスロ合意の署名式には、イスラエルのラビン首相と、パレスチナのアラファトPLO議長の間に、仲介役としてアメリカのビル・クリントン大統領がいました。2000年には、そのクリントン大統領が、ワシントン郊外にあるアメリカ大統領専用の別荘「キャンプデービッド」に、イスラエル、パレスチナ双方の指導者を招いて、約2週間、このパレスチナ問題に缶詰になったんです。アメリカの大統領がここまでやっても解決できなかった。

もし、アラファト議長がエルサレムを譲っていれば、パレスチナは国家を樹立できたんです。でも、「エルサレムが首都ではないなら、パレスチナ国家は必要ない」というのがアラファト議長の立場で、パレスチナ民衆の結論だったんです。

でも、クリントン大統領や、1999年に首相となったイスラエルのバラック首相は、エルサレムをパレスチナに渡そうとはしなかった。

パックン そもそものオスロ合意も、パレスチナ人が皆賛成していたわけではないんです。パレスチナ系アメリカ人の作家でエドワード・サイード氏は、「その合意はパレスチナにとって売国行為だ」と批判していました。

中川 それは、オスロ合意でイスラエルを承認したからです。この点、ハマスはいまだにイスラエルという存在を認めていません。だからハマスは、パレスチナ民衆からまだ支持される存在でもあるんです。

イスラム組織ハマス支持者の集会=2014年、ガザ市、朝日新聞社
イスラム組織ハマス支持者の集会=2014年、ガザ市、朝日新聞社

パックン この問題は、最終的には、イスラエルと共存するパレスチナという国家を樹立することで解決する、これを「二国家解決」と言いますが、それしかないと思います。しかし、イスラエルは、自分たちにとって都合のいいパレスチナ国家しか考えていません。

パレスチナ人の交渉カードは国際社会の世論しかない状況でしたが、それも最近は関心が薄れていて、手元にカードは残っていない状況でした。「アラブの連帯」も2020年夏にアラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンなどがイスラエルと国交正常化して、パレスチナ人は裏切られた格好です。

アメリカの中立的な立場である、イスラエルとパレスチナ双方から譲歩を引き出すという本来の姿勢もトランプ前大統領によって捨てられました。これからは、ガザの状況が「アパルトヘイト」だという認識を世界中に広め、外的な圧力を高めるしかないと思います。でも、今は、世界中の皆さんは、ほかのことで忙しいから…。

日本にはどう影響がある? 中東と日本のつながりとは

中川 今回、くしくも日本でも、テレビなどでかなりショッキングな空爆映像が流れたので、関心を持たれた方もいると思います。しかし、日本にとっては、パレスチナ問題は、単なる国際情勢の一つではないんです。

日本は、原油輸入の約9割をサウジアラビア、UAEなどの中東産油国に頼っているんです。アメリカは石油の「シェール革命」があり、もはやエネルギーは中東には頼っていません。今までは、中東の安定はアメリカがやってくれました。クリントン大統領の努力もあったし、オバマ大統領も中東に高い関心を持っていました。

バイデン政権になって、外交の重心を中東から中国に移して、中東におけるアメリカのプレゼンスが低下し、中東が不安定になったら、一番困るのは日本です。日本人の生活なんです。パックンは、バイデン政権は今後パレスチナ問題にどう向き合うと思いますか。

アメリカのバイデン大統領=朝日新聞社
アメリカのバイデン大統領=朝日新聞社

パックン 私は、バイデン大統領は、最終的には中国の方に重点をおきたいと思っていると思います。今は、1980年代や1990年代とちがって、イスラエル・パレスチナの間に何かがあるからと言って、また世界戦争が勃発するという可能性は極めて低いです。

イスラエルの軍事力は中東のどの国よりも高い。経済力も含めた国力は圧倒的です。さらにそのイスラエルのバックにアメリカがついているとしたら戦争はしないでしょう。

パレスチナ問題は一刻も早く解決すべき問題だと私も思いますけど、解決しなくても周りはそれに納得しているし、中東の石油に頼っているのは日本だけではない。だから、パレスチナに対してイスラエルの脅威になるほどの軍事的支援は誰もしない。パレスチナの核開発を応援するようなこともしない。

そう考えると、世界的な視野でみれば、パレスチナ問題は地域限定の問題になります。もちろん、人権の切り口では地球人としての責務もあります。ブリンケン国務長官も中東訪問しましたが、まずは沈静化の維持が目的だと思います。

バイデン大統領にとって大事なのは、中国、新型コロナ対策、アメリカ経済だと思います。

中川 パレスチナ問題は、アメリカ国内ではどれぐらい関心をもって見られていますか。

パックン 日本よりは何倍か関心は高いです。中東とアメリカの歴史は深いし、そもそも数年前までは、アメリカ国内にいるユダヤ教徒は、イスラエルにいるユダヤ教徒より多かったんです。

対談時の写真はいずれも上溝恭香撮影
対談時の写真はいずれも上溝恭香撮影

トランプ前大統領の娘婿のジャレット・クシュナー氏のように影響力を持っているユダヤ人も多い。私の親もキリスト教徒ですが、ユダヤ教徒は兄弟のようなものです。いろんなファクター(要因)で、アメリカは中東を近く感じています。

今回のガザのようなセンセーショナルな映像となると、アメリカのトップニュースにもちろんなります。

中川 2001年の9.11同時多発テロ事件、2003年のイラク戦争など、この20年間でアメリカは、イラク、アフガニスタンに多くの米兵を派遣しました。そういう意味でアメリカ人にとって、中東はまさに自分事、家族も失っている場所なんです。なので、中東はもう十分という感情もあるのではないでしょうか。

パックン イラク戦争は間違った戦争だったし、9.11事件についても主犯のアルカーイダだけ取り締まっていればよかったのではないかと思います。この4月に、バイデン大統領は、アフガニスタンからの米軍の完全撤退を発表しましたが、今は、アメリカ国民の中東への関心もだいぶ薄れてきています。

さきほど中川さんが言われた、オスロ合意やキャンプデービッドサミット。たぶん(中東和平問題の解決に)一番近いロードマップだと思うんですけど、あれにお互いに納得がいかないんだったら、もう打つ手がないんじゃないかなと思ってしまいますね。

中川 イスラエルとパレスチナが相互承認して交渉しようというのがオスロ合意の精神。今は、その交渉が7年間ないので、話し合えない状況。スタートしようがない。バイデン大統領がそこまでやる覚悟があるかというと、今日のパックンの話だと、「ない」ということですね。

 

(この続きの【後編】はこちらからご覧ください)

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