オーナーにのしかかる人件費の重み

オーナーにのしかかる人件費の重み

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コンビニが踊り場を迎えている。店舗数と売上高に往時の勢いがなく、次代の成長ビジョンもはっきり示されていない。成長どころか、経済産業省はコンビニの持続性を問題視する。その一番のネックは店舗の人件費である。昨今、問題となった人手不足も人件費に起因している。人件費をどう捉えるのか、省人化を推し進めるのか――。コンビニにのしかかる人件費の重みを考察したい。

私たちの暮らしに欠かせないコンビニ。優れた商品や便利なサービスを次々に提供する一方、各チェーンは人件費の高騰、食品廃棄、24時間営業の維持など新たな問題も抱えています。「月刊コンビニ」元編集長の梅澤聡さんが、コンビニが描く新しい未来を、50年の歴史を踏まえて解説します。第2回は「オーナーにのしかかる人件費の重み」です。

人手不足の原因は最低賃金すれすれの時給

コロナ禍により、コンビニで働く多くの外国人従業員が帰国した。

代わって居酒屋などで職を失った働き手がコンビニの仕事を得て、2020年4月の初めての緊急事態宣言の頃から「深刻な人手不足」を訴える声は減った。

とはいえ、コンビニ業界は恒常的な人手不足に悩まされてきた。

ここは気を緩めず、コロナ後を見据えて、今のうちに対策を打つべきだろう。

 

コンビニの人手不足を語る際、コンビニが構造的に抱える課題を指摘しておく必要がある。

よく「深夜の働き手が集まらない」と耳にする。

2019年2月に大阪府東大阪市のフランチャイズ店が午前1~6時の間に店を閉めた「事件」も、当初は多くのメディアが人手不足や過酷な勤務実態を挙げ、店側に一定の理解を示していた。

大阪府東大阪市のセブンイレブンに貼られた、営業時間短縮のお知らせ。深夜営業中止の強行はコンビニ業界に大きな波紋を広げた=2019年2月20日、朝日新聞社
大阪府東大阪市のセブンイレブンに貼られた、営業時間短縮のお知らせ。深夜営業中止の強行はコンビニ業界に大きな波紋を広げた=2019年2月20日、朝日新聞社

コンビニの人手不足とは、店が設定した時給に対して求職者の応募が少ないことを意味する。

端的に言えば、コンビニの時給が安いのだ。

都道府県別の1時間当たりの最低賃金は、例えば東京都は2016年から毎年2.7%前後上昇し、2019年には1013円となり、神奈川県の1012円と並んで全国で初めて1000円の大台を突破している(2020年はコロナ禍で据え置き)。

この最低時給すれすれのラインで求人しているのが多くのコンビニ店であり、人が集まらない要因になっている。

 

このアルバイトへの人件費は、フランチャイズに加盟するオーナーが全額支払う。

店舗で働く従業員のシフト勤務をどう組むかはオーナーの専権事項である。

オーナーの利益に直結するからだ。

 

オーナー利益を圧迫する2つのシナリオ

ここでコンビニの収支構造をイメージしてもらうため、ざっくりとした数字で3つのシナリオについて説明したい(図参照)。

なお、チェーンや売上などの条件で数字は複雑に変動する。

平均値ではない点にご留意いただきたい。

まず基本シナリオについて。仮に1日の売上(日販)が60万円の店舗を運営する、あるチェーンのオーナー夫妻がいたとする。

1カ月の平均売上は1800万円になる。

値入率(売値から仕入れ値を引いた利益率)を31%とすると、売上総利益は558万円。

チェーンの取り分(本部チャージ=土地・建物・什器・物流・情報システム・経営相談員などのコスト負担)を60%と設定すると、オーナー夫妻の総収入は558万円の40%の223万円。

そこから水光熱費の店舗負担分(チェーンにより負担率は異なる)の10万円と、食品廃棄ロスの30万円を差し引くと183万円。

チェーン本部からの各種支援金や負担分を17万円として上乗せすると、店側には200万円が残る。

 

オーナー夫妻の利益を50万円と設定する(決して高くはない)と、残りは150万円。

これをアルバイトの人件費に充てていく。

150万円を30日で割ると1日5万円。

時給1000円のアルバイト2人を24時間ずつ(1000円×2人×24時間=48000円)、雇える計算になる。

オーナー夫妻は発注業務やアルバイトの教育、売場づくり、予約商品の営業、その他の管理業務を担うほか、朝の通勤時間や昼休みといったピーク時にレジ業務が回らなければフォローに入る。

 

次に売上減少シナリオについて考える。

近所に競合店が出店した影響で、日販が10万円減って50万円になったとする。

同様に計算して、オーナー夫妻の利益50万円を維持しようとすると、アルバイトの人件費に充てられるのは113万円。

これを30日で割ると、1日37000円(37時間分)しかアルバイト代を支払えない。

常時2人態勢を維持するなら、夫妻が(48時間-37時間=)11時間分、シフトに入る必要がある。

毎日11時間分の作業が増えるのだ。

 

最後に時給高騰シナリオについて。

売上をキープしても時給の高騰が続き、仮に平均1300円になったとする。

日販60万円であれば、人件費に充てられるのは前述の通り1日5万円。

これでは時給1300円のアルバイトを38時間分しか雇えない。

常時2人態勢を維持すると、夫妻は(48時間-38時間=)10時間のシフト勤務が求められる。

毎日10時間分の作業が増える計算だ。

 

割増賃金節約へ オーナー自ら深夜シフトも

このシミュレーションで何が言いたいのかといえば、アルバイトの人件費が、かくも重たくオーナーにのしかかるということだ。

毎月50万円の利益を得ていた夫妻の店が、仮に日販が下がったり時給が高騰したりすれば、それをカバーするため自らルーティンのシフトに入って店を回す必要に迫られる。

 

ここでは夫妻2人で50万円の収入確保を前提としたが、現実には売上の低下とアルバイトの人件費の重さゆえ、50万円の確保さえ難しい加盟店もたくさんある。

 

オーナーの利益が明らかに少ないとき、最初に考える対策は、アルバイトを削ってオーナー自身が代わりにシフトに入ることだ。

自らがシフトに入り、アルバイトの時給をまるまるオーナーの利益に振り向ける選択である。

オーナーの中には、アルバイトの時給を節約するため、割増賃金(25%以上)が課せられる深夜(午後10時~午前5時)に進んでシフトに入る人も多い。

アルバイトよりもスキルが高いことを理由に、本来は深夜2人シフトのところを1人に削って自分が入り、週のうち何日かをいわゆるワンオペで回すオーナーもいる。

 

もちろんチェーン本部は、オーナーによる恒常的な深夜シフトを快く思っていない。

改善すべき対象と捉えている。

コンビニ業界は、オーナーの高齢化が進んでいる。

深夜シフトは健康の悪化や思考の低下、気力の減退を引き起こす要因になりかねない。

深夜のワンオペですっかり疲れ果ててしまい、契約更新時にチェーンを脱退するオーナーも後を絶たない。

 

チェーン本部はオーナーに対して、目の前の人件費削減ではなく従業員の育成や売場づくりに注力し、人件費の原資である「売上」を高めてほしいと考えている。

「いやいや、オーナーが人件費を削って利益を増やしても、チェーン本部は1円の得にもならないでしょう。一方で店の売上が増えれば本部の収入も増える。だから本部は、人手をかけて売上を上げろと指導しているんですよ」と、二項対立をあおる言説は昔からあった。

本来は、オーナーが商売に励み、加盟店が儲かって初めて、フランチャイズチェーンは存立する。

加盟店とチェーン本部の軋轢(あつれき)は双方に良い結果をもたらさない。

 

人件費をどう使うかはオーナーの専権事項である。

チェーン本部が最も恐れているのは、売上減→人件費削減→運営力の弱体化→売上減→人件費削減、といった「負のスパイラル」である。

であれば、店舗運営力の「質」を維持・向上させながら、どうやって人件費を抑制していくのか、その仕組みづくりをチェーン本部は急ぐべきであろう。

 

コスト構造を変えるセルフレジの拡大

人件費抑制策の例の1つは、2019年頃から本格的な拡大が始まったセルフレジだ。

レジ業務のコンビニ作業全体に占める割合は3分の1から2分の1程度と考えられている。

もし全ての顧客にセルフレジで精算してもらえれば、毎月のアルバイト代の3分の1から2分の1に当たる月数十万円の利益が加盟店に上乗せされる計算になる。

JR東日本リテールネットが2019年7月にオープンした、中央線武蔵境駅改札外にある「NewDays武蔵境nonowa口店」。セルフレジ2台を置き、売場に人員を配置しない(事務所に1人配置)=筆者提供
JR東日本リテールネットが2019年7月にオープンした、中央線武蔵境駅改札外にある「NewDays武蔵境nonowa口店」。セルフレジ2台を置き、売場に人員を配置しない(事務所に1人配置)=筆者提供

ただし、現実として、商品バーコードのスキャンは面倒くさく、従業員に任せた方が早い。

顧客はバーコードの位置でもたつくし、袋詰めにも慣れていない。

それでも、スーパーマーケットでは実用化されており、多くの顧客は使いこなしている。

コロナ禍で人との接触を嫌う傾向が強まり、セルフレジの利用比率が徐々に上がっている。

この点を捉えれば、加盟店オーナーには僥倖(ぎょうこう)であろう。

 

今回は深夜帯の話をしたので、ローソンが実験した「深夜帯の売場無人化」を最後に紹介したい。

2019年8月23日から横浜市の店舗で、午前0~5時にかけて売場に従業員を配置せず、顧客にセルフ決済を義務づけた期間限定の実験で、次のような内容だった(現在は終了)。

 

・入店するためには、ローソンアプリのQRコード、あるいは店がお得意さまに配布するカードのQRコードをかざす

・上記を用意していない顧客には、その場で顔写真の撮影を求める

・支払いには自動釣銭機付きのセルフレジを利用する。ICカード、クレジットカード、スマホ決済なども使える

・有人サービス(切手販売、収納代行、宅配便)はこの時間帯は対応できない

・本人確認が必要な酒、たばこの販売はできない

・防犯カメラを通常の2倍設置して、管理センターが店内をくまなく監視

・深夜の納品物(温度帯指定のない商品)は店舗敷地内の倉庫に一時保管

横浜市磯子区の店舗でローソンが実験した深夜帯の売場無人化。入店の際にQRコードか顔写真の撮影を求められる=筆者提供
横浜市磯子区の店舗でローソンが実験した深夜帯の売場無人化。入店の際にQRコードか顔写真の撮影を求められる=筆者提供

実験で明らかになったのが、「酒・たばこ販売不可」が大きな影響を与えたこと。

もともと、酒かたばこのどちらかを購入する人は、この時間帯の来店客の約半分を占めていた。

その客層がそっくり消えてしまい、客数が大きく凹んでしまった。

未成年の利用を防ぐため、店側には目視による確認が義務づけられるが、無人ではそれができない。

であれば、遠隔操作で映像による本人確認をOKにするなどの措置が取られないと、深夜の顧客に不便を強いることになる。

 

コンビニ草創期には、10代、20代のアルバイト学生を採用できた。

比較的、安価で働いてくれて、深夜シフトもいとわず、店の成長を支えてくれた。

その後、コンビニ店舗数が増えるにつれて、若者の数が減って採用が難しくなり、時給が上昇、コンビニの土台を揺るがしている。

ローソンの実験のような、最新デジタル技術を搭載した新たなコンビニの改革が求められている。

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