スピードスケート・ショートトラックで3度の冬季五輪に出場した勅使川原(てしがわら)郁恵さん。日本代表選手を長年務めることができた背景にあるセルフマネジメントの手法は、多くのビジネスパーソンにとって応用が利くといいます。その実践法をお伝えします。
このご時世、健康に働ける環境づくりは企業にとって重要な課題です。
また、私たち個人にとっても健康は生涯大切なものです。
私は健康に関する22の資格を持っています。
日本代表選手として海外遠征を繰り返す中、結果を残すため、中学時代から食事、運動、休養を通じて健康管理を徹底してきました。
引退後は多くの方々の健康をサポートしたいと思い、健康に関する専門的な知識を習得したのです。
このコラムでは今回から3回にわたり、次のテーマについて書く予定です。
「3度の五輪に出場した経験から得た、長期の自己管理法」
「日本代表選手を15年続けられたモチベーションの保ち方」
「大舞台の前の緊張のほぐし方」
皆さまの健康面、メンタル面のサポートにつながる情報をお伝えします。
3歳で始めたスケート。3度の五輪出場を支えた"自己管理"
父がスケートのコーチをしていたこともあり、私は3歳でスケートを始めました。
スケートは楽しく、小学校高学年の頃には「日本一」になる夢を持ち、毎日コツコツと練習を積んでいました。
その夢が叶ったのは、中学2年の時。
1993年に開かれたスピードスケートの第16回全日本ショートトラック選手権です。
まだ14歳の自分は、世界で活躍する大先輩たちと一緒にレースができる喜びと、「自分に挑戦!」という気持ちで出場しました。
結果的に総合優勝し、日本一になれました。
それからは「世界一」「オリンピック」と夢が広がりました。
初めてのオリンピックは、1998年の長野五輪。
母国開催のオリンピックに日本代表選手として出場した経験は、今では宝物です。
結果は3種目でそれぞれ4位、5位、6位入賞でした。
メダルを取りたいという思いで、次の2002年ソルトレイクシティ五輪、2006年トリノ五輪と3度のオリンピックに出場することができました。
中学1年で国際大会に出るようになってから、27歳で出たトリノ五輪までの15年間、常に日本代表選手として活躍できたのは、自己管理をしっかりしていたからかもしれません。
食事、運動、休養。自分を管理するための、三つのポイント
自己管理とは、自分を管理すること。
様々な管理がありますが、私は健康管理や体調管理を重視していました。
体調はスケートのパフォーマンスに大きな影響を与えます。
もちろん仕事も同じです。
長期の自己管理法には三つのポイントがあります。
食事、運動、休養のバランスが大切です。
一つ目は、バランスの良い食事をとること。
私が実践しているのは、色を楽しんで、カラフルな食卓にすることです。
緑、赤、黄、紫、黒と、色とりどりの食材を並べるようにしています。
そうすることで、難しい計算をしなくても、栄養バランスが整った健康的な食事になります。
毎日3食のことなのでシンプルに考えた方が楽ですし、楽しみながら続けられます。
そうは言っても仕事が忙しく、毎日自炊する時間も食材を買いに行く時間もないという方もいますよね。
その場合、ネット注文できる野菜の宅配サービスを使うか、休日に食材をまとめて買っておきましょう。
疲れて料理するのも面倒という時は、卵かけご飯にブロッコリーやトマトを添えるだけでも、十分栄養バランスは整います。
二つ目は適度な運動を心がけること。
現役時代はけがをしないよう、体の使い方を丁寧に考えながらトレーニングしていました。
引退後は、公私を問わず正しい姿勢で歩き、座る姿勢や立ち姿勢を常に意識しています。
そのように姿勢良く生活していると、腹筋と背筋をしっかり使えますし、バランス良く全身の筋肉を動かせるため、太りにくい体づくりができます。
そのような適度な運動や心がけだけで、私は現在2児の母であり、かつてのようなトレーニングもしていませんが、今でも現役時代と変わらないウエストラインで、体重も増えていません。
一般的に30、40代と年齢を重ねるにつれ、基礎代謝が落ちて太りやすくなります。
何もしないと体形は崩れてきますし、在宅勤務で椅子に座る時間が長くなっている方は要注意です。
体の不調を感じない方も今のうちから、毎日ストレッチをする、移動は歩きを増やすなど、軽い運動を生活に取り入れて習慣化できれば、年齢を重ねても体形を維持できます。
海外遠征に必ず持参。体調の良さをキープしてくれたもの
三つ目は質の良い睡眠をとること。
現役時代は、国際大会などで一年の半分を海外で過ごしました。
色々な国を転戦するため、睡眠環境が変わり、時差に慣れたり体調を整えたりするのが大変でした。
そこで、どこに行っても睡眠の質を良くし、次の日に疲れを残さないためにも、二つの工夫をしていました。
一つ目の工夫は、お風呂の湯船に40度くらいのぬるめのお湯をため、ゆっくりつかることです。
気持ちをリラックスさせられるだけではありません。
体温をいったん上げ、汗が引くと同時に深部体温が下がることで、入眠を促せます。
忙しいビジネスパーソンの中には、お風呂に入らずシャワーだけという方もいるかもしれません。
ただ、シャワーでは深部体温を上げることができず、寝つきは改善しません。
40度くらいのぬるめのお湯に入ると、副交感神経が優位になって気分は鎮静化に向かい、血液の循環も良くなり、体温が少し上がります。
少し上げた体温が下がる時、寝つきが良くなるのです。
逆に42度くらいの熱めのお湯に入ると、交感神経が優位になり、目が覚めてしまいます。
このため寝る前にはお勧めしませんが、気合を入れて仕事したい時は、熱いお風呂が最適です。
二つ目の工夫は、枕を選ぶことです。
睡眠の質は枕の高さに大きく左右されます。
そのため私は海外遠征にはマイ枕を持参していました。
枕選びのポイントは、首筋の骨がまっすぐで無理のない状態になるものを選ぶことです。
ただし枕は高さだけでなく、肌触りや弾力性など好みが分かれます。まずは自分がどんな枕が好きか、把握しておくことが大事です。
自分に合った枕と言っても、必ずしもオーダーメイドで3万円かけて作らなくてもいいのです。
私は高さが低く、低反発素材の枕が好きだったため、子ども用に売っていた3千円くらいの枕を海外遠征に持参していました。
そのかいあって、どこの国に行ってもマイ枕のおかげでぐっすり眠れ、体調も良い状態をキープできました。
睡眠環境が悪いと、疲れがたまって集中力も下がります。
また生活習慣病の原因にもなる可能性もあります。
将来健康でいるためにも睡眠の質は良くしたいものです。
私は引退後もこのような自己管理法が習慣になっているため、体調を崩すことなく、いろいろな仕事に挑戦して毎日元気に過ごせています。
皆さんも心がけ一つで変わりますので、実践してみて下さい。
ご紹介した自己管理法が一人でも多くの方々の健康に役立てばうれしいです。
次回は「日本代表選手を15年続けられたモチベーションの保ち方」についてお伝えしたいと思います。
※このコラムは隔月掲載です。